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目的を成すための体力をつけるべく、侍女たちに出された食事をしっかりと食べ、焦りを押し殺し睡眠も取った。
改めて自分に付けられた警護の者たちを観察してみれば、この城から逃げだすのが相当に難しいと気づいた。
彼らは柚子を一人にしない。
特に四人の侍女は絶対に離れない。
(どうしよう)
柚子は歯痒かった。
やみくもに計画を実行すれば、あっという間に捕らえられる。
逃走の意志を悟られれば、警護を増やされるか場所を移されるかもしれない。
(ああ…)
再び、柚子の心は千々に乱れた。
そうしたところへ、ついに信竜がやって来た。
部屋に入るなり信竜は満面の笑みを浮かべ、柚子に駆け寄った。
たちまち柚子の小柄な身体は信竜の逞しい両腕の中へと抱きしめられる。
「柚子様」
柚子の顔を真っ直ぐに見つめる信竜の瞳が、穏やかで温かい。
その様子を見て、もしや信竜が信虎を討ったのではないかという想像が柚子をぞっとさせた。
「柚子様? ご気分が優れませぬか? お顔の色が良くない」
青ざめた柚子の顔に信竜が表情を曇らせる。
「いえ、そんなことは」
そう言って、柚子は精一杯に笑ってみせた。
「信竜様は今まで、どうしておられたのですか?」
「おお、そのことです」
信竜は柚子を離し、下座へと行くと居住まいを正した。