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信竜に信虎殺害を約束され、柚子の心は激しく揺れた。
単純に信虎を討てるという嬉しさもあった。
だが、考えてみれば冥と骸と行動を共にした時点から、柚子は信虎を討つ決心はしているのだ。
着々と進む復讐は信虎にあと少しのところまで来ていた。
それにもかかわらず、信竜の申し出に心が揺れたのは柚子のために父すら殺害すると言った信竜の苛烈な愛の告白に、胸を打たれたからに違いなかった。
(信竜様…)
信竜への憎しみは消えていた。
もはや復讐の対象ではない。
ただ、信竜の提案を受け入れることは出来なかった。
離れてみて分かったのだが、冥と骸の存在がいつしか柚子の心の中で大きな位置を占めるようになっていた。
父母を失い、目の前で弟の武丸を斬殺され伊崎伝兵衛に乱暴される間際、冥と骸は柚子を助けてくれた。
それはまるで、信虎に復讐したいという柚子の怨念が具現化したのではないかとさえ思える出逢いだった。