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一時も柚子が一人きりになることは無かった。
柚子が冥と骸と離れ離れになって、一夜が明けた。
柚子は久方ぶりに心地よい寝具を使えたのだが、一睡も出来なかった。
顔色は病人のように青白く、両眼の下にくっきりと、くまが現れている。
柚子の頭には別れる間際の冥の言葉がずっと反響し続けているのだ。
「まさか…ここまで来て、あたしたちを裏切るつもりかい?」
(違う!! 違う、違う!!)
柚子はあのときを思い出し、思わず首を横に振った。
四人の侍女が、その様子をじっと見ている。
彼女たちの眼は何か雑事をしていても、片時も柚子から離れない。
柚子は侍女たちの視線に気づかない。
冥と骸を思い出してばかりいる。
(裏切ってない…)
柚子は悔やんだ。
何故、冥に疑われたとき、はっきりと否定しなかったのか?
信竜を振り払ってでも冥と骸の元へ走らなかったのか?
それはやはり、柚子の信竜への恋情が原因であったと言わざるを得ない。