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「手練れの者たちを付けております。いざとなれば柚子様をお連れして逃げる手筈に。心配はございません」
「………」
藤十郎の答えにも信竜は不服そうだった。
「今は信虎を討つことにご専念ください。それが、柚子様の願いでもあるはず。信虎さえ倒せば国は治まり、お二方様の婚礼も滞りなく行えましょう」
藤十郎が畳かけた。
計画はすでに動きだしている。
信竜の気を信虎討伐から逸らしてはならない。
「………そうだな」
信竜の顔から殺気が消えた。
「信虎の首を獲らねば俺と柚子様は永遠に結ばれぬ」
柚子に割り当てられた部屋は、広く立派なものだった。
信竜は前主君の娘として柚子を極めて丁重に扱った。
彼の配下の者たちも同様に柚子に接した。
柚子には四人の侍女が付けられた。
彼女たちは甲斐甲斐しく柚子の世話をし、この新しい可憐な主人に自らは何もさせないほどの気遣いを発揮した。
一見、普通の女に見える侍女たちは実は藤十郎が集めた忍びの者であった。
平時より情報収集に活躍し、腕も立つ。
部屋の周りには屈強な侍たちが、ずらりと並んでいる。
柚子は気づいていないが、天井裏には男の忍びが四人、息を殺し潜んでいた。
正に鉄壁の警護であった。
しかし、柚子にとっては軟禁とも言える。