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しかし冥の瞳は大山城を、否、城内に居るであろう柚子さえも見透かすように妖しい光を放つのだった。
冥と骸の脱出した大山城では、一時の騒ぎがようやく収まりつつあった。
信竜と藤十郎は城内の一室で、城兵の報告を受けていた。
冥と骸の死体を確認出来なかったという報告である。
「やはり、化け物の類であったようです」
藤十郎が言った。
片手を振って、報告に来た城兵を下がらせる。
「このところ、信虎軍を襲っていたのはおそらくあの者たちと思われます。目撃した者の話と一致します」
藤十郎は、はっきりと「信虎軍」と言った。
これは自らが信虎の仲間ではないと明言したに等しい。
信竜と藤十郎の信虎への叛意は、もはや隠す必要もない。
信虎は倒すべき敵なのだ。
信竜は藤十郎には答えず、上座に座したまま両眼を閉じ微動だにしなかった。
「念のために退魔の剣を探させておいて正解でした。京の退魔師より譲り受けたのですが…。実際に化け物が現れたからには、退魔師たちを呼び寄せたほうが良いかもしれません」
「藤十郎」
信竜の声は静かだが重々しかった。
藤十郎は姿勢を正し平伏した。
「はっ」
「柚子様のご様子は?」
信竜の両眼がかっと見開き、鋭い眼差しが藤十郎を射抜いた。