112/180
112
きょろきょろと周りを見回す。
「がっ!?」
「ああ、柚子は置いてきた」
「がーーーっ!!」
骸が身体を震わせた。
「うるさいねぇ。あのときは余裕が無かったのさ。お前は泣き叫ぶし、柚子は信竜の腕の中だし」
「うう…」
「もちろん、柚子は取り返すさ。何のために今まで付き合ったと思ってるんだい?」
「………」
骸は大人しくなった。
冥の言葉にやっと落ち着きを取り戻したようだ。
「ただ、今度は気をつけな」
冥が続けた。
「お前の身体はあの刀で斬られたら使い物にならなくなる。これまでみたいな戦いかたじゃ、やられちまうよ」
「………」
「心配なのかい?」
「うー」
「大丈夫だよ。信竜は柚子を殺したりはしない。あいつのことは、お前も少しは知ってるんだろう?」
骸が激しく頷いた。
「とはいえ、ゆっくりもしてられないか…。さあ、どうしようかねぇ」
そう言って冥は大山城の方角へと顔を向けた。
林の木々に遮られ、城の姿は見えない。