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「傷を見せな」
骸が小刻みに震えながら、肘から先の無い右腕を冥に見せた。
「うー」
「情けない声を出すんじゃないよ」
冥が傷口を確かめる。
粉々になった肘から先と同じく、斬り口はどす黒く変色し土くれのようになっていた。
しかも徐々に肩に向かって、浸食を始めている。
「ふうん」
冥が言った。
「まじないだね。あの刀、魔祓いのまじないがかけてある」
冥の両眼が細まった。
「小賢しいね」
「ううー」
「分かった、分かった。じっとしてな」
冥が小さな手のひらで骸の傷口を押さえた。
小声でぶつぶつと何かを唱えだす。
呟きはしばらく続いた。
「ほら」
そう言って冥が手を離すと、骸の右手の浸食が止まっていた。
切断面に薄皮が張っている。
骸は右手を鼻先に近づけ、まじまじと見つめた。
どうやら痛みも消えたようだ。
「うがっ」
「元には戻らないよ。我慢しな」
骸は右腕を見つめていたが、急に何かを思い出したのか慌てて身を起こした。