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冥が跳んだ。
骸を持ち上げたまま後方へと跳び、信竜と柚子から一瞬で離れたのだ。
再び跳び上がり、庭の塀の上に乗った。
骸を運んでいるとは思えぬ、猫科の獣のしなやかな動きだ。
このとき、ようやく城内の警備の侍たちが庭へと集まり始めた。
骸の叫びを聞きつけたのだ。
侍たちは信竜と柚子の周りを囲み、塀の上の侵入者へと刃を向けた。
「曲者っ!」
「弓を持ってこい!」
侍たちの怒号が響く。
冥は騒然とするその様子を見下ろしていたが。
「ちっ」
舌打ちした。
冥の姿が塀の反対側へと飛び降りたのは、次の瞬間だった。
常人ならば助かる高さではない。
地に叩きつけられ、即死は免れないであろう。
「墜ちたぞ!」
侍たちの声に必死で信竜の邪魔をしていた柚子は愕然となった。
「待って!!」
信竜から離れ、狂ったように冥の飛び降りた場所に走りだす。
「冥っ!! 骸っ!!」
足がもつれ、転倒しかける。
その柚子をぐっと信竜が引き戻した。