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それは懐かしさに似ていた。
目前の骸に対して感じているのだ。
(おかしい…こんな怪物には会ったことがないというのに…)
信竜が考える間にも骸の右手が進み、迫ってきた。
このままでは骸と信竜が接触する。
「信竜様っ!!」
屋敷から突如、男の声が上がった。
四人の視線が、そちらへと向く。
いつの間に戻ってきたのか、こちらに藤十郎が走ってくる。
両手に通常よりも二回りは大きな刀を抱えている。
「藤十郎っ!!」
信竜が吼えた。
藤十郎の手から大刀が信竜へと投げられた。
大刀は放物線を描いて飛ぶ。
信竜の左手が大刀の中ほどを、がしっと掴んだ。
瞬間。
藤十郎が両手でなければ運べぬ大刀を信竜は片手で鞘から引き抜いた。
右手で抜き放った一撃は狙いを外さず、骸の右腕を肘の部分から斬り落とす。
「うふふ」
冥が笑った。
余裕の笑みだ。
「無駄だよ。こいつはそんなことじゃ、びくともしない」
冥が言い終るか終わらぬかというところで骸の大絶叫が爆発した。
「がああああっっっっ!!」
意味を成さない苦悶の絶叫だ。
骸が斬られた傷口を左手で押さえ、その場を転げ回る。
今までの戦いで骸が見せたことがない苦痛の表情だった。
「なっ!?」
これには冥も絶句した。
信竜が落ち着いた動きで、苦しむ骸へと大刀を振り上げる。