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あれほど憎もうとしても憎めなかった信竜。
父、小諸義時への謀反に加担したに違いないと思っていた。
しかし、涙を流し自分の生存を喜ぶ信竜の姿を見て全ての疑いは霧散した。
(信竜様は何も知らなかったのだ)
逞しい両腕に抱かれた柚子の全身が小刻みに震え始めた。
信竜と同じく、双眸に光るものがにじんだ。
「信竜様」
消え入りそうな声で言った。
柚子の様子に気づいた信竜が、その涙を指で拭う。
「柚子様」
信竜が、にっと笑った。
まるで少年のような無邪気な笑顔だ。
見る者を和ませる笑み。
「もう何もご心配なされますな。この信竜が柚子様をお守りいたします。義時様の仇も、この信竜が討ちましょう」
信竜の言葉に柚子は驚きで目を見張った。
「信竜様、それは…」
「さよう」
信竜が頷く。
「実の父なれども、もはや奴の外道ぶりを許すことは出来ませぬ。奴の首をはね、柚子様にご覧にいれましょう」
この提案に柚子は激しく動揺した。