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「お前たちは誰だ?」
再び信竜が訊いた。
「見つけた、鬼道信竜」
小さな影の声が弾んだ。
中ぐらいの影のほうを向く。
「殺す前に恨み言のひとつでも言ってやりな」
中ぐらいの影が、ぐらりと揺れた。
夢遊病者のようにふらふらと前へ進み出る。
夕陽はすでに沈みきっていたが闇に慣れ始めた信竜の眼は近づく影の正体を、ついに認識した。
断腸の思いであきらめた恋い焦がれた女人の姿が、そこにあった。
「柚子様っ!!」
咆哮と言える叫びを上げ、信竜が跳ねた。
木刀を投げ捨て神速の速さで、ふらつく柚子の細い身体を抱きしめる。
そのあまりの突然さに残りの二つの影、冥と骸も思わず呆気にとられ、抱き合う二人をただただ見つめていた。
もしも信竜に敵意があれば、柚子は簡単に命を奪われていただろう。
「生きて…」
柚子を視線で刺し貫かんばかりに見据えた信竜の両眼からは、すでに涙が溢れ出ていた。
「生きておられましたか!」
一方の柚子にも激しい感情の変化が起こっていた。
信竜の姿を見た瞬間から胸の鼓動は倍の速さとなって、頭は真っ白に足取りもおぼつかなくなった。
冥に促され前に出たものの、言葉が何も出てこない。
そこを怪鳥の如く飛んだ信竜に荒々しくも抱きしめられた。
(ああ…)