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「おう」
信竜が答える。
「義時様、御方様、柚子様、武丸様、もうしばらくお待ちください」
信竜は天を仰いだ。
「外道信虎を討ち、皆様方の恨みを必ず晴らしてみせまするぞ」
信竜と藤十郎、二人は同時にその気配に気づいた。
気のせいではない。
厳重な警備によって守られた大山城の庭に何者かが侵入してきたのだ。
その方法までは分からないが、曲者は城兵の誰にも気づかれず二人の前に現れたことになる。
庭の隅にいつの間にか、三つの影が立っていた。
大きな影がひとつ。
中ぐらいの影がひとつ。
小さな影がひとつ。
横並びに立っている。
藤十郎の動きは速かった。
疾風の如く庭を後にし、屋敷へと駆け上がった。
そのまま藤十郎の姿は消えた。
これでは信竜を置いてきぼりにした格好になる。
城兵を呼びに行ったのか?
一人、残された信竜は落ち着いている。
二人の間で、こうしたときの取り決めが普段から話し合われていたのか?
「何者だ!?」
信竜が三つの影に訊いた。
「お前が鬼道信竜かい?」
小さな影が逆に訊いてきた。
大人の女の声だ。
「確かに俺は信竜だが」
信竜は恐れを見せない。
虚勢ではなく心底、三人の曲者たちに恐怖を感じていない。
右手の木刀を構えもせず、三つの影に鋭い視線を向ける。




