彼女が仕込んだ罠
今日は、エイプリルフール。一般的には嘘をついてもいい日とされている。
僕は、いつもと変わらず、この場所にいた。僕の教室。自分の席がある僕の教室。
ここで僕は今から繰り広げられる内容を理解しなくてはならなかった。
僕と彼女は中学からの付き合い、と思っていたのだが、以前小学校時代に通っていた塾で偶然にも同じクラスだったということに最近気づいた。
当時通っていた塾は、集団指導型の4クラス制。その中で彼女と棒は一番下のクラスにいた。隣同士の席になったときは、ちょっとドキッとしたのを今でもはっきりと覚えている。なにせ、小学校時代の僕だ。そんな女の子とそれも隣でしかも塾で、そんなこと誰が想像できただろうか。
さて、今から始まるのは、いつも通りのお話だ。僕は、これを“説教の時間”と読んでいる。多分、第三者目線から見ると、一方的に怒られているだけに見えるかもしれない。僕は、その考えを否定するつもりは毛頭ない。だって、そうなんだから。
「さて、今日は何から言おうか」
「その始まり方がもうおかしいと僕は思うんだけ」
「うっさい。聞け。」
「はい」
言葉も途中で遮られるまでなら心の広い僕は気にしないが、付け足しのように湧き出てくる暴言というか一言というかそれはどこから生まれてくるんだろう。
こんな会話いつから始まったんだろう。そして、当時の僕はなぜこの状況を受け入れてしまったんだろう。もし、タイムマシンが実在するものであれば僕は、この容認してしまった自分に対して喝を入れに行きたいと思う。
「今日は、何したの」
「いや、何もしてないですけど。」
「いや、してるでしょ」
「いや、してないですけど」
「いや、してるって」
「いや、してないですって」
「早く白状しろって」
「今日は、何もしてない」
「いや、絶対何かしてるハズだ」
「いや、してないしてない、今日はマジでしてない」
「あのさ、一つ言いたかったんだけど」
「うん、僕もたぶん同じことを思っているのだと思うよ」
「「さっきから、うんばっかりやめろや!」」
見事にハモった。すばらしい重なり。こんなことが簡単にできるのであればこれをもっとほかのことに使えばいいのにってつくづく思う。
「すいません」
これだ、僕の悪いところ。ナンバー350番くらいにはランクインしているだろうと思うところ。すぐに引き下がってしまう。一度引き下がったほうが穏便に済ませれると何を血迷いその結論にいたったのかは不明だが、そこは気になるところ。
「はい」
なんで、ここで彼女は謝らないのだろう。
僕は、彼女の悪ふざけにプチっと何かが切れてしまうようにいつもなら思わないはずの怒りが、真剣な怒りを感じた。
自分で仕掛けたことの内容を理解してもそれを振り切るように喋り続ける彼女を標的としていた怒りが、だんだん僕の中で少しづつ形になって、もはや僕自身で片付けることが無理だった。
一体、僕をなんだと思っているのだろうか。弄ばれた、そう実際感じたし、事実そうなんだろう。
いつもなら、まったくなんとも思わない自分に対して何かが変わったとかと思った。
僕の感情と行動は、全面一致を決め、案外簡単に脳内で承認が降りた。
「え、どしたの?急に」
突然いつもの周りとの応対用のテンプレートを引っ張り出してくるな。素直に思う。
「ちょっと、痛い」
黙って僕は彼女の目を見ていた。
「さっきのは冗談だよ?ほら、エイプリルフールだよ」
どうなっていたら彼女は満足をしていたのだろうか。もう自分で自分がよくわからなくなってきた。
僕も何も話さなくなると、曇っていた彼女の顔が素の顔、いわゆる真顔に戻った。
「おっ、いつもみたいにノリがいいね!さぁ、そろそろ話してよ」
彼女は困った。
「もう、そろそろ話してもらってもいい?痛いよ」
彼女は怒った。
「何してるの!?早く話してよ!」
僕は、たぶん今までで一番の無感情にした目で、彼女をまっすぐと見つめていた。彼女も、また僕の目線から逃げようとはしなかった。
僕らが、繰り広げているのは教室の中。ちらほらと僕たちのことを気づいた人もいるみたいだ。目線が集まってきた。小声も聞こえる。
第三者から見ると、この状況は、クラスでするにはもったいないくらいのロマンチックなものだったのだろう。こんなときにもなぜか頭が回ってしまう僕でもそう感じていた。・・・・・
To be continued.....