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『はは。航海王の後悔 2』

作者: 中仙堂

流れ流れて行き当たりばったり、老いて尚ろまんの法螺日記(この話は現実の事件、人物の話ではございません。只思いつきで都度書いて居る為、いつ突然最終章に成るやも知れない、危険な、いい加減な作者の無駄話しでございます。余り期待しないで下さい。即断筆になるかも知れません。)


ヴェネツィアは「水の都」「アドリア海の真珠」などの            別名をもつ世界中の船乗りの憧れの水都である。今日も良く晴れ渡った空に港は観光客の波で埋め尽くされて居た。しかし、今日はまた余りにも人が多過ぎるのじゃ無かろうか。そう、今日はこのヴェネツィアの一番の祭レガッタなのだ。

レガッタとは、ヴェネツィアの有名なボートレースの事だ。

おう、忘れておった。儂名は男爵。大分以前、ボトルシップで世界の海を渡り切るとか云う馬鹿気た趣向で      世間を騒がせた海の男じゃ。「確か、前作では死んだ筈では。」…と疑問の方もおるじゃろう。「はっはっは。段階の世代はしぶといんじゃ。」さて、無駄話が過ぎた様だ。儂は又々懲りずに船出する事にしたんじゃ。今回も、やはりヴェネツィアのガラス工房のサンチョ爺さんをと、       爺さんを訪ねたが生憎と一足先に、お迎えが来たそうじゃ。誠に残念じゃが止むなく、儂の愛艇ボトルシップは、             息子に任せる事に成った。サンチョ爺さんの息子は若者だ。        肺活量も有るし、特大のワインボトル全長15メートルサイズの特注品じゃ。さてと、その進水式が今日ヴェネツィアのレガッタの日だった。もう街中はレース熱で盛り上がった。数十万人の観客がヴェネツィアの運河の岸辺に、               目白押しでそりゃ壮観なもんじゃ。「おっ。」ヴェネツィア娘達が儂のボトルシップに歓声じゃ。年甲斐も無く興奮しよったもんじゃ。ボトルシップのラムネ色を通してヴェネツィアの黄金の夕映えは、       余りにも美観で失神ものじゃった。


ヴェネツィアの黄金の夕映は静かに暮れ行き、水平線に侘しい月が昇って来た。何処からともなく、クラシカルギターのさざめくようなつまびく音が流れて来た。                        運河の岸辺に並ぶ煉瓦創りのベランダで誰かが戯れに唄うのか、懐かしいカンツォーネが…外はすっかり暗くなり、             運河沿いのたたずまいが、何とも良いもんじゃ。さて、我がボトルシップは動力は無い。ヨット型牽引ロボット(GPS内蔵《globalpositioningsystem》      汎地球測位システム。                          国防総省のGPS衛星から専用ターミナル電波を受信し、           自身の位置を知るシステム)の力に航海を託す予定である。今宵は明日の出港を前に、又々悪童共を集めてのパーティーだった。航海は先ずヴェネツィアを出港すると東へと地中海を進む予定である。

今朝の地中海は穏やかであった。どうも昨夜はアルコールが過ぎたようである。目覚めたのは何と午前9時ボトルシップの中はラムネ色の太陽が一杯だった。特注のコルク栓を開けると潮風が頬に心地良い。

ボトルの隙間から貨物船の霧笛が響いて来る。悪童仲間もいつの間にか帰ったらしい。一人静かに出港と行こう。ヨット型牽引ロボットの電源スイッチを入れた。暫くすると、ヨット型ロボットは帆に風を孕みながらしずしずと進み始めた。運河に掛かる眼鏡橋の上がやけに賑わって居る。橋の上から紙吹雪が舞い、突然にマーチが聞こえて来た。「ヴェネツィアは最高だぜ。」万感高まり、涙腺がすっかり緩んでしまいおった。あいつらだ。友人達が、悪童達の憎い演出だった。波に揺られて、我輩は久方に酔った。海の男達の温かいエールに酔ったのだ。

儂のボトルシップも愈アドリア海を東に向かって進み始めた。実に爽快なもんじゃ。岬の先端に航海の安全を願って女神像が祭ってあった。東の国ジャポンに暫く暮らした事が有り、妙な習慣が身に着いた。岬の女神像に、思わず柏手を打ってしまった。女神様もさぞかし、面食らいなさったろう。水極は陽光の煌めきを放ち、数百ものトビウオの群れは銀色の鱗が輝いた。突然、背後で物凄い警笛が鳴った。すっかり魅惑的な光景に浸って居て、航路を塞いで居るのに気付かなかった。貨物船の右舷の窓から航海士が身を乗り出し大声で叫んで居た。誠に済まん事じゃ。貨物船が高速で去って行った。貨物船の作る横波を喰らって我がボトルシップは二回ほど回転しよった。強烈な挨拶に3メートル程突き飛ばされ、腰をしたたか打ってしまった。ま、儂の不注意だった。暫くすると強烈な空腹を覚えた。昨夜から何も喰ってなかったのを思い出した。「折角なので、日本の池袋で覚えた、イタリアにも無いイタリア料理を食べよう。」何かって、パスタのナポリタンじゃ。何も珍しくも無い。はっはっは。

ソーラー発電と云う便利な物が出来たので、今回の装備は快適じゃ。ヨット型牽引ロボットの帆布には補強したフィルムタイプのソーラーバッテリー、甲板やヨット本体も隙間無く貼り詰めたと云う訳じゃ。一人旅の気軽さ故、光熱費はこれで十分と云うもの。「ほれ、熱々の池袋仕込みのナポリタンじゃ。」地中海の夕映えから宵闇の月の出迄時間はゆっくりと更けて行く。~♪水の都ヴェネツィア何て素晴らしい私の船は行くさざ波の上~♪

そんな歌が有ったね。

「Z~Z~Z~。」月は天高く煌々と海を照らして居た。

ふと、気がつくと海の上は雨だった。海中からボトルを通して白く波立った海面が見えた。水面下は実に静かな世界だった。何処までも深いエメラルドで有った。雨の日は海面近くには魚達は余り上がって来ないので有ろうか。ふと気がつくと視界の中に何か黒い影を感じた。遥か三十メートル位左舷下に巨大な物体が、動めいて居るのを見た。儂のボトルシップは残念ながら海面付近から潜航する機能は無い。恐らくアメリカかロシアの原潜かも知れない。驚く程のスピードで去って行った。その時海面から明るい閃光が射した。「おう、晴れたらしい。」太陽が高く昇り、遠く靄っている彼方は、昔暗黒の大陸と呼ばれたアフリカか。すると白い靄の向こうから何やら太鼓の音がして来たのには驚いた。靄やを切り裂いて丸太舟に乗り込んだ大勢の男達が押し寄せた。儂は余りにも突然の事に躯が凍りついてしまった。彼らが目と鼻の近さ迄来た時には儂は「うわ~。」と叫んでち目が醒めた。久々の航海で疲れて居るらしい。その時ボトルの口から何かが飛び込んで来た。先程儂の目を楽しませてくれたトビウオだった。今度は食欲を満たしてくれるらしい。愛する海は色んな幸を与えてくれる。今イタリアで流行って居る「すし・さしみ」を知って居るかね。おう、知って居る。通だね。はっはっは。海は広いし、だ~れも居らん。丸一日暇と云えば暇。東京築地には旨い寿司屋が有ったものさ。「お~、豪華なクルーザーじゃ。」このまま東を目指せばスエズじゃ。皆向かって居る。だが道は未だ遠い。


「嗚呼。よく寝た。」

わが艇ボトルシップは地中海海上のまん中で。キラキラと残照に照らされて揺れていた。自分の心は夢想に耽っている。世界は序々に宵闇に迫っている。ボトルシップの中は黄金色に染まって、自分も艇内の全ても輝いて居た。茜色の雲と対象的に空色が群青色に変わって行くなか。白い明るい星が煌めいている。「宵の明星、金星だった。またの名前をヴィーナス。」

遠く東の方向に灯りが、ぽつんと見える。貨物船の灯りだろう。時々舷側を波が洗うと、夜光虫が妖しく光る。

空を見上げれば満天の星、ガラスを通した海中も満天の星だった。

突然何かが、ぶち当たった。

バッテリーのコードの接点が外れて、まっくら闇になってしまった。

流石海の男。

些かも慌てずに胸のスマートホンの電源を入れると、薄暗い艇内の補助灯を点けた。やや斜下に異様に光る目があった。

また、ズシーンと衝撃が走った。

「はっはっはっはっはっは。奴だ。」

海の嫌われ者ホオジロだった。

「親父め。いや、嬶さんかも知れない。」

相当空腹らしく、ガラスを通した儂に食らい付いて来よった。

オリーブの様な暗く無感情の目がじっと儂を見つめて居る。

いつ見ても気持ちの良いものでは無い。

がりがりと齧りつくが、

流石にベネチュァングラスは歯が立たない様だ。

儂が不良のホオジロの相手に手こずって居るのを、

ギリシャの沿岸警備隊の船が

不振に思ったらしく、

突然思わぬタイミングでサーチライトの

の光りに照らされた。

「どうしたんだ。」

警備艇の上から、ライフルで

援護をしてくれた。

ホオジロは思わぬ伏兵に

もんどうり返って

何処かへ退散してしまった。

「有難う。」

警備艇に促されて甲板に這い上がった。

思わぬ所で海の男の身の上話しに花が咲いた。


スエズ運河は、地中海と紅海を結ぶ人工運河で1869年アフリカ大陸の希望峰を遠回なしでヨーロッパとアジアを結ぶ。ポートサイドとのスエズ市まで通じる海の大通りであった。愈々ポートサイドが見えて来た。ポートサイドと云えば日本国内では、様々な商業施設や結婚式場、などの名称に勝手に使われて居るが、ポートサイドそのものを現地人以外で知って居る者は少ないであろう。ポートサイドは、エジプトの北東部、地中海沿岸にある都市である。エジプトの首都カイロから北東に約200kmに位置し、人口は約50万人。スエズ運河の北端にあたる。名前はサイード・パシャに由来する。(そう言う儂も知らなかった)

昔ナイル川と紅海を結ぶ運河があったらしい、ナポレオンが運河の遺構調査に夢中になり、1798年頃に科学者や地図学者に調査を命令したそうじゃ。受け売りだが。古い街は良いものじゃ。(もの書き(講談師)は、見て来た様なウソをつき/川柳)緑濃い山や森林を後ろに控え、街は古いものと新しいものが融合して、賑わっていた。上陸して市場へ繰込むのも魅力であるが、ボトルシップが心配なので、余り目が離せない。漸く道行く男に何かと世話を焼いてくれる人間を紹介してもらった。もちろん、たんまりとチップを弾む事は、日本以外では何処でも通用する鼻薬であった。



地中海の東端ここは西洋とアジアの混在する町ポートサイド。白髪の魅力的な老翁が、様々な航海に要する雑貨を周到に整えてくれた。いよいよ、ポートサイドともお別れ、ボトルシップはゲートを通り抜けると航行はおよそ1哩前後の、のたりのたりペースで進んだ。気の短いのが欠点の儂も観念するしか無かった。運河には追い越し車線は無いのである。船はのろのろと、行列を作って前進するのであった。運河の両サイドには黄土色の古い町並みが延々と続いた。岸辺を歩いている若い娘さんも余り興味が涌かなかった。「ああ、なんて退屈なんだ。」いっそのこと、アフリカ大陸の南端の喜望峰廻りを選択すれば良かったか。90哩を12時間かけて通行します。水先案内のボートが先導して後に続きます。「嗚呼、なんて退屈なんだろう。」昔、日本に立ち寄った時に食べた「札幌ラーメン」が突然喰いたく成った。間もなく紅海だ。航海王が紅海に向かいつつ後悔する。(何とも詰まらぬ駄洒落。)

「おおっ間もなくスエズ市のタウフィーク港だ。」居眠りしつつ、後ろの貨物船の警笛に目を覚まされながら、睡魔との戦いは終わりそうだ。タウフィークへ着いたら何を食べようか。スエズの産みの親、レセップスには感謝すべきかも知れないが、この便利の為に、北の地中海と南の紅海で、海水の塩分濃度やら、生態系の崩壊も起こり、運河の建設によって侵入した紅海種は移入種(en)として、地中海の生態系の中で無視できない数まで繁殖し、環境に深刻な影響を与えている。と言われている。


今紅海をずーと南下して居るところである。エメラルドの海の深淵を覗くと可成り深い辺りまで珊瑚がびっしりと層を為している。ここからも、魚の乱舞が見えますよ。昨日、じんべい鮫とランデブーでしたが、生憎鮫の言葉は判らないので、でも何か愛嬌のあるユーモラスな奴ですね。

じんべい鮫に似て穏やかな巨大生物はマンタですかね、こいつはまた小判鮫を引き連れて矢張り海の王者の双璧ですね。

食べた事は無いけど。

なぜかお腹が空いて来ました。さっき釣り上げた鰺を今干物にして保存食糧を作っています。

海上のロビンソン・クルーソーですかね。干物は日本人の船乗りに教えてもらいました。中々美味なものです。生憎醤油を持ち合わせていなかったのですが、同じ魚で作った魚醤がまた、干物の旨味を引き立ててくれます。

え~左手に見えますのは、アラビア半島。右に見えませんが、右に見えれば、それがアフリカ大陸です。



茫洋とした紅海その果ては阿弗利加から亜剌比亜へと遥かにつづく。私はこの大いなる海の懐に抱かれ、ボトルシップに揺られて人生の何たるかを独り考えていた。すると、雲行きが妖しくなって来た。さて、紅海特有の嵐のお出迎えかい。阿弗利加の海岸の一際小高い丘に近付くと断崖の上に人の子の立つ姿が見えた。「おや。」空は突然暗雲に包まれて、今にも夕刻にならんとする薄暗がりになり、海上は突風が吹き始めた。「あれよ。」と私が驚いている内に、海面が泡立ち始めると共に、水面に亀裂が走って来た。「な、何だ。」海は轟きながら、左右に分かれ始めた。「ど、どうすりゃいいの。」私は、慌ててボトルシップを牽引するGPS機能搭載のヨットを手動に変え、面舵一杯を切った。「た、助けてくれ。」海は大荒れ、私のボトルシップは木の葉の様に翻弄された。「ああっ。もう駄目だ。『航海王の後悔』も今日で終わりか。御陀仏…」と、その時私は、大汗をかきながら、目を覚ました。此処は紅海まっただ中。(夕べネットで観た『十戒』チャールトン・ヘストン主演)の影響大らしい。


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