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九十四話 スタンピード終結

 スタンピードが終わった翌日から、魔物の死体の処理やバリケードの撤収、救護施設の片付けといった作業が行われた。


 特に大変だったのが、死体の処理だった。

 そのままにしておくと他の魔物が食べて力をつけてしまうため、迅速に処理しなければならない。

 本来は魔法などで死体を燃やすのが一番手っ取り早いが、ここは草原。

 適当に火なんて放ったら一面火の海になってしまう。


 そのため、一部の冒険者が血肉に誘われてやってくる魔物を追い返しつつ、残りの冒険者が一体一体焼いていく、という地道な作業が行われた。

 動けるようになったリルカが参戦した時は、諸手を挙げて喜ばれたそうだ。

 確かに『燐火』なら魔物の死体()()を燃やすことができるし、こういうときに凄く役立つ魔法だよね。


 ちなみに私はその作業を遠目で見つつ、最も人員の少ないバリケードの撤収を黙々と行った。

 ……いやだって、植物の私に万が一にも火が移ったら、一瞬で火災発生しちゃうし。


 全てが終わったのは、スタンピード発生から丸三日経った日の夕暮れ時だった。

 スタンピードの対処やその片付けを行っていた冒険者たちはギルドから報酬を受けとり、さらに特に貢献したとされる数人が特別報酬を獲得し、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。

 ちなみに特別報酬はギルマスのポケットマネーらしい。

 何というか……ご愁傷様。


 私とリルカ、それにダボルスさんパーティは別室に呼ばれ、ギルマスから労いの言葉とともに報酬を手渡された。

 リルカとグリットさん――私たちのすぐ右が持ち場だった人――は早々に離脱したことを気に病んだのか報酬を貰うのを躊躇っていたが、最終的にギルマスが押し付けていた。


 また、そんなギルマスに関して、ダボルスさんから話を聞けた。

 どうやらギルマスがドラゴンとの戦いで使っていた剣や靴、籠手といった物は全て魔道具とのこと。

 その他にも多数の魔道具を身につけており、魔道具を駆使するその戦い方から『武人』とも呼ばれているらしい。


 そして、今回の騒動における一番の疑問点。

 五年周期で発生しているはずのスタンピードが、なぜ二年目の今年に発生したのかについて……は現在調査中らしい。

 テアさんのときみたいに、また私が何か絡んでいるのか、と思わず身構えてしまった。

 が、今のところ最も有力な説としては、北にあるギデル山脈で強力な魔物が発生したため、他の魔物が南――つまり王都方面へと雪だるま式に増えながら雪崩れ込んできた、というものらしい。

 言い方は悪いけどちょっと安心した。

 それが私の不運に引き寄せられた産物、というのなら話は別だけど……。


 ◇◇


 その翌日、私とミーシャ、リルカの三人は本屋へ訪れていた。

 木製の扉を押して開けると、奥のカウンターにいたお爺さんが気づいて顔をあげた。


「いらっしゃい」


 そう言って手元の本をパタンと閉じるお爺さん。

 私たちも店の中に入ると、リルカを先頭にカウンターの前へゾロゾロと歩いていく。


「片付けの方はもう終わったのか?」

「……昨日終わった。それと。……ありがとうございました」


 お礼をするリルカにならって、私も頭を下げる。

 リルカと私は、ワイバーンとの戦いで怪我を負ったところを治してもらっている。

 今日はそのお礼が目的の一つだ。


「なに、それが儂の仕事じゃからな」

「……仕事?」


 お爺さんの言葉に頭を上げて首を傾げるリルカ。

 そしてもう一つの目的が、このお爺さんが何者かを聞くことだ。


「そうじゃ。アルフレート・ウェスタンシア様の依頼でな」


 ……誰それ?

 聞いたこともない名前に私は首を捻り、チラリと右隣のミーシャを盗み見る。

 あ、うん。

 ミーシャも分かっていない様子だし、少なくとも常識ではないみたいなので安心した。


 今度は左隣のリルカを見ると、目を見開いて驚きの表情を浮かべていた。

 え……何?

 リルカの知っている人なの?


「続きを話すのは良いが……どうする?」


 お爺さんは私とミーシャの方を一瞬だけ見ると、眼光を鋭くしてリルカにそう尋ねた。

 リルカは驚きから醒めたのか表情を戻して私たちの方を振り向く。

 そして何故かじっと私の目を見つめてくる。

 ……えっと、何かな?

 私たちがいると話し辛いことなら、席を外すけど。


「……アルネ。ミーシャ。二人ともこれから話すことは内緒でお願い」

「う、うん。分かったの」


 何やら神妙な、でもどこか覚悟を決めたような面持ちでそう告げたリルカに、私もミーシャと同じく思わず頷いてしまった。


「……大丈夫。二人なら問題ない。話の続きを聞かせて」


 リルカの答えに、お爺さんはふっと表情を緩めた。

 そこにはさっきまでの威圧感はなく、好々爺然とした面貌のみが残っている。


「良いご友人を持ったようじゃの。()()()()()様」

「……やっぱり。あなたウェスタンシア家の関係者?」

「いかにも。リルカーナ様は覚えていないじゃろうが、幼い頃に何度か会っておるよ」


 え、え?

 リルカーナ様って、リルカのこと?

 ごめん……話についていけないんだけど!?

名前を間違えていたため、修正いたしました。

正しくは「ウェスタンシア」となります。

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