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九十二話 VSドラゴン その二

 ドラゴンと戦闘を始めてから数分後――。

 私たちは絶望に襲われていた。


 フウさんともう一人の前衛、そして中衛の人はドラゴンから遠くで倒れており、ダボルスさんは地に膝をついてその身体を剣で支えている状態。

 私と弓使いの人は攻撃を続けているけど、強固な鱗と翼ですべて弾かれてしまっている。


 BランクのワイバーンとAランクのドラゴンで、ここまで差があるの?

 翼を薙いだだけで風が吹き荒れ、爪を振り下ろせば防いだ武器ごと弾き飛ばされる。

 これじゃまるで嵐を相手にしているみたいだ。


 ダボルスさんが剣を杖代わりにしてなんとか立ちあがったのを見て、私は地中から吸い上げる魔素量を増やした。

 それと同時に身体中のあちらこちらが裂けて血が出るが、今は気にしていられない。


「――お花さん!」


 背負ったミーシャが慌てて回復魔法をかけてくれる。

 チラリと横目で顔を覗くと、開きかけた口をぎゅっと閉じ、唇を噛んでいる。

 心配かけてごめん。

 でも、ここで出せる力を出さないと、きっと私は後悔すると思うから……。


 伸ばした両手の前に、一際大きなウォーターボールを作り出す。

 ダボルスさんが剣を構えたタイミングで、私はウォーターボールを撃ち出した!


 駆け出したダボルスさんより先に、水弾がドラゴンへと迫る。

 ドラゴンは今までと同じように翼で水弾を弾き落とすが、威力の増したそれに押され、わずかばかり姿勢を崩した。


「うおおっー!」


 その一瞬の隙をついて、ダボルスさんが気合いの籠った声をあげながらドラゴンへ剣を振り下ろした。

 ダボルスさんの剣は翼の盾を避け、ドラゴンの身体へと真っ直ぐに迫り――そして、鱗に弾かれて半ばから折れた。

 次の瞬間、逆側の翼がダボルスさんの身体の横から叩きつけられる。


「――あっ!」


 背中で小さく息をのむ声が聞こえる。

 ダボルスさんは数メートルほど飛ばされた後、地面をさらに転がってとまった。

 衝撃で気を失ってしまったのか、立ちあがる気配も、動く気配もない。

 ……死んではいないと信じたい。


 ドラゴンは翼を広げて悦びともとれる咆哮をあげると、その目を私とミーシャの方へ向けてきた。

 ……うっ!

 あまりの力の権化を前に、思わず逃げ出したい衝動に駆られる。

 けど、逃げ出したって意味がないことは知っている。

 あのドラゴンは王都を襲い、半壊させるだけの力を持っている。

 何とかしてここで倒さないと!


 私は覚悟を決めると、今までよりもさらに多くの魔素を吸い上げようとして――突如景色が傾いた。

 ……え?

 バタンと自分の身体が地面に倒れ込む音が聞こえ、次いでミーシャの「きゃっ!」という悲鳴が聞こえた。


 え……何が起こったの?

 身体を動かそうと力を込めてみるけど、指一本すら動かない。

 身体の中に溜まっていた魔素と魔力が、栓を抜いたように漏れ出ていく。


「お花さん! お花さんっ!」


 固定していた蔓が解けたのか、いつの間にか目の前に回ってきたミーシャが声をかけてくる。

 視界が揺れることから、私を揺すっているのは分かるけど、感覚も一切ない。

 これ、もしかして……魔素が暴発した?

 エリューさんから聞いていた現象とは違うけど、タイミング的にそれしか考えられない。


 そしてさらに……ドラゴンが大きく息を吸うのが、揺れた視界の端に映った。

 あれは……ブレスっ!

 感覚のない身体で、けれど大きく心臓がはねあがるのだけは分かった。


 ――ミーシャ、後ろを向いて!

 急いでここから逃げてっ!


 泣きじゃくりながら回復魔法をかけてくれるミーシャに、私は目で訴える。


 私のことなんてどうでもいいからっ!

 お願いだから――逃げて!


 しかし私の訴えは届かず。

 ドラゴンが私とミーシャに向けて、灼熱の炎を吐き出した――。


 ◇◇


 いつまでも襲ってこない炎に、私は思わず瞑ってしまっていた目を開ける。


 そこには、身の丈ほどある巨大なツーハンデッドソードを振り抜いた格好の巨人がいた。

 その後ろ姿とツーハンデッドソードに見覚えがある。

 ――ギルドマスター!


「やあ、無事だったかい? 遅くなってごめんね」


 ギルマスは剣をおろして姿勢を崩すと、首を半分回して私たちを見た。

 口調はいつもと変わらず軽いが、その表情は険しい。


 背後から聞こえた声に、ミーシャは不思議そうに振り返る。


「……ギルマスのおじさん?」

「おじさんは酷いなあ。せめてお兄さんと呼んでよ」


 ……うん、そんなことはどうでもいいよ。

 というか、いつの間にそこにいたの?

 それと、さっきのドラゴンのブレスはどうなったの?


 色々と尋ねたいことがたくさんあるが、動かない身体ではままならない。


「まあいいや。二人とも、少しそこで待っててね。すぐに片付けてくるから」


 まるで近くへ散歩に行くような口調でそう言うと、ギルマスはおろしていた剣を担ぎ直し、ドラゴンの方へ歩いて向かっていく。

 対するドラゴンは、突如現れたギルマスに警戒してか、はたまたブレスが掻き消えたことに不満を持ったのか、低く唸り声をあげている。


「さてと、そこのドラゴン。僕のギルドの仲間に怪我させた罪、しっかり償ってもらうよ?」

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