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八十九話 怒り怒られ

 ブーツの根っこを引っ込めた後、ふらついて倒れそうになる私を、駆け寄ってきたミーシャが支えてくれた。


「お花さん、大丈夫?」


 そう言いながら背中に手を回し回復魔法をかけてくれる。

 うん、大丈夫大丈夫。

 ちょっと全身に筋肉痛みたいな痛みがあるだけだよ。


「全く、無理をするのう」


 呆れ顔を浮かべながら来たお爺さんがミーシャと逆側に立つと、同じく回復魔法をかけてくれる。

 あはは、ごめんなさい。


「近くの冒険者に聞いたが、今のワイバーンがこの辺りでは最後だったらしいぞ」


 そっか、良かったー。

 お爺さんの言葉にホッとした後、北西の空を見上げる。

 まだ次のワイバーンは来ていないみたいだね。


 確か事前の報告では、ワイバーンは百体確認しているとか聞いていた気がする。

 今のところ確認できているのは、始めに五体、その後に三十体ほど。

 つまりまだ三分の一しか倒していないということになる。


 ブーツを使った上でのウォーターカッターを当てられればワイバーンを一撃で倒せるとはいえ、身体にかなりの負担がかかる。

 見える部分の傷はミーシャとお爺さんのお陰で塞がったけど、身体の中はいまだ刺すような痛みが治まらないし、体力もすでに残っていない。

 理由は分からないけど、第二波が来なくて本当に助かったよ。


「傷は治ったし、儂ができるのはここまでじゃ。回復魔法では体力は回復せんからの。次のワイバーンが来るまで、休むといい」

「ありがとうなの、お爺さん!」

「ほほっ、どういたしまして」


 ミーシャお礼と同じタイミングで私も頭を下げる。

 お爺さんは手を振った後、バリケードを飛び越えて去っていった。

 また今度本屋へ行ったら、何かお礼しないとね。


 ◇◇


 その後、ミーシャの手を借りながら私もバリケードを越えると、後方の救護施設の近くで休ませてもらうことにした。

 救護施設は立方体の簡易なテントのようになっており、その影で休んでいる冒険者も何人かいた。


 草の上に座って飛び交う情報に耳を傾けていると、どうやらワイバーン戦で重症を負ったのは、リルカと隣の持ち場の人だけだということが判明した。

 また、現状ではどの持ち場も魔物の群れの進軍に耐えることができているらしい。

 さらに幸いなことに、死者はいまだゼロ人とのこと。

 まだまだ気を抜けないけど、今のところはなんとか対抗できているみたいだね。


 さらに救護テントの横で座って休むこと十分。

 一人の冒険者が私とミーシャのところへ駆け寄ってきた。


「はあ……はあ……。よ、ようやく見つけました……!」


 よほど慌てていたのか。

 息を切らしたその青年は、私たちの近くまでやって来ると、太ももに手を置きすこし前屈みになって息を整える。

 この青年、どこかで見覚えが……あ!

 リルカを運んでいってくれた人か!


「先ほど烈火……リルカさんが目を覚ましました!」


 ――ほんとに!

 青年の言葉に、私は疲れも忘れて思わず立ち上がる。

 今どこにいるの? 案内して!

 私は左腕を伸ばして西を指差す。


「あ、はい。少し西のテントで休んでいます! 案内します!」

「リルカさん、無事で良かったの!」


 そうだね、本当に良かったよ!

 私とミーシャは青年に案内されて少し西へ移動すると、救護テントのうちの一つへと入った。

 テントの中は入り口から続く通路と、左右にカーテンで区切られた部屋一つずつがあった。

 青年は「こちらです」と左側の部屋を指す。


「では僕は戻りますね」

「ありがとうなの!」


 私もお辞儀をして青年を見送った後、カーテンをそっと開けて中へと入る。

 木枠に布をかけただけの簡易ベッドに、リルカはうつ伏せになっていた。

 服が捲られ、白い背中には痛々しく包帯が巻かれているが、回復魔法で大分塞がっているのか、血はあまり滲んでいない。


 ミーシャの声で気づいていたのか、リルカはうつ伏せのまま首だけを回して私たちの方を向いた。


「……二人とも無事だったんだ。良かった」


 ――「良かった」はこっちの台詞だ!

 私はリルカに近づくと、頭を軽く小突いた。

 もちろん怪我人なので手加減はしている。


 リルカは一瞬分からないと呆けた顔をしていたが、


「……心配かけてごめん。それと助けてくれてありがとう」


 と言った。

 うん、分かればよろしい。

 確かにワイバーン一体を任せたのは私だし、リルカも任せてとは言っていた。

 それにあの時は他に方法がなかったのも事実だ。

 だからといって、あまり無茶はしないでほしい。


 私がうんうんと頷いていると、ミーシャはジトッとした目を私に向けて一言。


「お花さんも、人のこと言えないと思うの」


 ……あー。

 うん、ごめんなさい。

 私はミーシャに向き直ると、深々と頭を下げた。


「……ところであの後どうなった?」


 私は頭をあげると、黒板を取り出してリルカにかいつまんで説明をする。


 ワイバーンはなんとか倒したこと、ミーシャと本屋のお爺さんが助けにきてくれて、私とリルカに回復魔法をかけてくれたこと。

 それにワイバーンの第一波はすべて倒したこと。

 お爺さんの説明のときにリルカは「え?」と首を傾げたが、私もいまだによく分からないのでスルーさせてもらった。

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