八十三話 VSワイバーン
ワイバーンが視認できるようになると、冒険者たちが騒ぎ出す。
「あれがワイバーン……!」
「お、大きい!」
「あんなのどうやって倒すんだよ……!」
見える範囲でワイバーンは五体。
そのうちの一体が大きな翼を羽ばたかせ、こちらへ向かって飛んでくる。
とりあえずなんとかして地上に落とさないと戦い辛いね。
まずは様子見がてら、ウォーターボールを放ってみる。
ワイバーンは横へ移動し軽々と避けるが、それくらいじゃ意味ないよ。
私はウォーターボールの軌道を曲げると、ワイバーンの背後から右の翼を撃ち抜く。
……つもりだったが、少し傷をつけただけで弾かれてしまう。
うわっ、硬い!
しかしバランスを崩したワイバーンの、私が付けた翼の傷を狙って、炎の剣が何本も突き刺さる。
ワイバーンは大きな叫び声をあげ、地面へと落下していった。
隣を見ると、リルカが顔の横でグッと親指を立てていた。
うん、ナイスフォロー!
地上へと落ちたワイバーンに追撃すべく、私とリルカは魔物の死体の合間を縫って走る。
起き上がったワイバーンに向けて再度ウォーターボールを撃ち込むが、今度は避けずに翼で弾き落とされてしまう。
リルカも剣の形にした燐火を何発か突き刺そうとするが、翼で起こした暴風で吹き飛ばしてしまう。
私とリルカが近づく前に、ワイバーンは再び上空へと飛び上がった。
くっ、惜しかったのに!
やっぱり一筋縄じゃいかないか。
私たちを見下ろす形となったワイバーンは口を開いて大きく息を吸い込む。
――ブレスかっ!
咄嗟に私はリルカを脇に抱えると、蔓で地面を叩いて左へと跳躍する。
抱えられたリルカが残った燐火全てを盾の形に変えてワイバーンの目前に並べた。
ワイバーンはお構い無しというように、そのまま高熱の炎を吐く。
炎は盾を吹き飛ばし、草原の一部を焼き払い、近くにいた魔物を炭に変えた。
七、八メートルほど離れた私のところにもチリチリとした熱気が漂ってくる。
いやいや、威力高すぎでしょ!
「……横からも来る」
唖然とブレスを見ていた私の脇からリルカの声がした。
私は我に返ってリルカの目線を追うと、ブレスで吹き飛ばされたり避けたりしていた魔物たちがまた詰めよってきている。
こんなときに!
私はすぐさまウォーターレインを作り出すと、群れへと撃ち込んだ。
しかし、その隙をワイバーンが見逃してくれるはずもなく、鋭い爪を伸ばして襲いかかってくる。
私はリルカをしっかり抱え直すと、蔓を使って横へかわす。
ワイバーンの爪が地面を抉る。
リルカも新しく出した燐火を剣の形に変えてワイバーンに応戦する。
しかしワイバーンはそれを避けるように飛び上がると、ぐるぐると上空を旋回し始める。
ぐっ……次のワイバーンがいつくるか分からない以上、悠長に戦っている暇はないのに。
それに加えて、魔物の群れも迫ってきている。
私が歯噛みしたとき――。
「あの二人だけに任せるな! 遠距離が使えないなら、俺達の出番だ!」
「うおー!」
バリケードから飛び出してきた冒険者たちが、剣や斧を持って魔物の群れへと突っ込んでいく。
ポカンとその様子を見ていた私に、一人が声をかけてきた。
「群れの方は僕たちに任せてください! お二人はワイバーンをお願いします!」
それだけ言うと、武器を握り直して再び走っていく。
……ははっ。
これは、泣き言なんて言っていられないね。
リルカも同じことを思ったのか、表情を引き締める。
「……アルネ。前に庭で使った魔法使える?」
庭で使った魔法って……アレ?
私は脇に抱えたリルカに目線を落とすと頷く。
「ボクがワイバーンをおびき寄せる。アルネは隙を見てワイバーンを攻撃して」
おびき寄せる――。
何でもないようにリルカは言うが、それってつまり、あのワイバーンに対して囮役になるということだ。
私はリルカの澄んだ金色の目をじっと見つめた後、再度頷いた。
「……あとそろそろ降りるから離して」
あ……ごめん。
リルカは逃げるように降りると、上空を旋回するワイバーンを睨みながら燐火を作り出していく。
その隣で私もウォーターボールを平たくして回転させる。
回転速度が上がるにつれて、キュインキュインという高音が響き始める。
可能な限り速度をあげてから私はリルカを見る。
私たちは互いに頷きあった後、左右に別れて駆け出した。
私は近くにあったウルフの死体の影に隠れると、リルカの様子を伺う。
リルカは燐火を数個まとめて炎の玉を作り出していた。
私と十メートルほど距離をあけて立ち止まると、上空のワイバーンへ向けて炎の玉を放った。
炎の玉は吸い込まれるようにワイバーンへ向かっていき……しかしワイバーンも炎の玉を吐いてそれを打ち消した。
ワイバーンはリルカを見下ろし、威嚇するように翼を広げる。
完全にリルカを敵だと認識したみたいだね。
リルカはさらに挑発するように燐火をワイバーンへと何度も打ち出す。
ワイバーンは何発も飛んでくる火の玉を翼で叩き落としたり炎を吐いて相殺したりしていたが、そのうち苛立ったように鳴き声を高く上げる。
そして狙い通り、リルカへ向かって鋭い爪を伸ばしながら急降下してきた。




