八十二話 スタンピード開始
ミーシャと別れた私とリルカは、土嚢のバリケードまで歩いていき配置につく。
私の腰ほどまで積み上がった土嚢のバリケードは、低ランクの冒険者たちが魔物と戦うための壁となる。
作戦としては単純。
バリケードの手前から、魔法や弓を使って魔物の数を減らしていく。
バリケード付近まで近付いてきた魔物は、剣などを扱う近距離専門の冒険者が討伐。
それを繰り返していくだけだ。
魔物の死体が積み上がればそれが障害物となり、他の魔物の進行を遅らせることもできる。
つまり、始めの遠距離攻撃でどれだけ魔物を倒せるかが肝心となる。
そのため私たちワイバーン担当も、序盤は魔法や弓を使って魔物を減らすことに専念する。
幸いなことにワイバーンは大群の中央付近、序盤に現れることはない。
しばらくすると、武器を手にした冒険者たちが続々とバリケードまで集まってくる。
彼ら彼女らは私とリルカを見ると軽く一礼し、真剣な面持ちで遠くを見つめ始める。
しばらく冒険者たちを見たあと、ざわつきを感じて前へ向き直った。
「……来た」
リルカも気配を感じたのか、小さな声で呟く。
次第に気配は大きくなり、やがて地響きという形となって現れる。
地平線にずらっと並ぶ陰が見え始める。
私が魔力を練ろうとしたところで、何かの魔法か、草原中にギルマスの声が響く。
「みんな、魔物が見えて来たよ! 準備は大丈夫かい!?」
「おいお前ら、たくさん討伐したやつにはギルマスから特別報酬が出るぞ! 気合い入れろよ!」
「え、僕そんなこと言ってな――」
「うおおー!!」
ダボルスさんの横やりが入った後、一瞬ギルマスの戸惑った声が聞こえた気がするけど、すぐに冒険者たちの歓声にかき消される。
あはは……。
私は心の中でギルマスに合掌しておく。
改めて私は魔力を練ると、魔法を作り出す。
使う魔法はウォーターレイン。
魔物は密集しているためわざわざ指向性を持たせる必要もなく、ウォーターレインはものの数秒で完成する。
始めは十秒近くかかっていたことを考えると、だいぶ早くなったよね。
チラリと隣に目を配ると、リルカも燐火を作り終えていた。
「す、すげえ……」
「何あの魔法?」
後ろで冒険者たちのざわつく声が聞こえるが、今は気にしない。
しばらくすると、魔物一体一体の姿が見えてくる。
魔物はグラスウルフが最も多く、よく討伐依頼を受けるグラススライム、巨大なカマキリ、首の二つあるカラスなど、見える範囲だけでも数種類の魔物が混在している。
やがて、魔法や矢の届く位置まで魔物が近づいたとき――。
「――攻撃開始!」
ギルマスの掛け声とともに、私たちは魔法や矢を一斉に放った。
魔法は直線状に、矢は放物線を描くように魔物の群れへと吸い込まれていく。
そしてすぐに爆発音や魔物の叫び声が聞こえ始め、魔物が次々と倒れていく。
私も負けてられないね。
ウォーターレインを打ち終わったあと、すぐさま次の魔法を作り出していく。
それを打ったら次、また次……。
矢のなくなった人や疲労で魔力が練れなくなった人は一度後ろに下がり、代わりの者が前に出てくる。
たまに倒し損ねた魔物が接近してくるが、バリケードの少し前で待ち構えた前衛たちに返り討ちにあう。
今のところは順調そうだね。
ある程度魔物の死体が積み上がったところで、私とリルカは互いに目配せして後ろに下がる。
いつでもワイバーンが来ても大丈夫なように、体力を温存しておく必要があるからだ。
「お、お疲れさまですっ!」
包帯や傷薬を持った後方支援をしているらしき男の子が、私とリルカに声をかけてきた。
その首もとにはFランクの証であるプレートが下げられており、腰には剣が吊られている。
人手が足りないとはいえ、さすがにFランクの冒険者を前線に出すなんてことはしていないみたいだね。
私とリルカはアイテムバッグから水の入った革袋を取り出して一息つく。
その間に状況確認もしておくことも忘れない。
私たちは魔物の到達予測地点の最も西側にいるため、魔物の数は少ない。
ざっと見渡して見るが、幸い負傷者もいない。
続いて目を凝らして北側を観察してみる。
遠くで分かり難いが、北側も今のところ魔物を抑えきれているようだ。
問題は、この防戦がどれだけ続くのかと、ワイバーンの存在だ。
今の約数分間だけでざっと百体は倒したとして、あと百倍。
……うーん、思っていたよりもキツいかもしれないね。
ワイバーンに関しては戦ったことがないし、なるようになるとしか言えない。
その後も何度かバリケードの所へ行って魔法を使い、戻って休むを繰り返す。
そして、戦い始めてから一時間ほど経った頃だろうか。
休んでいた私の耳に、ギルマスの声が響く。
「ワイバーンが現れたよ! 担当の人たちは配置について! 他の冒険者は邪魔にならないよう、また巻き添えを食らわないように気を付けて!」
私は急いで遠くの空を睨むと、魔物の大群の上空に一際大きな陰を見つける。
それじゃ、ここからが私たちの本領発揮だね。
私は蔓を伸ばしながらウォーターボールを作り出し、リルカはいくつもの燐火を浮かべる。
さあ、いつでもかかってこい!




