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八十一話 応援と声援

 そして、決戦の朝。

 身支度を終えた私たち三人は、集合場所であるギルドへ向かうべく家を出た。


 すでに王都中に話は行き渡っているのか、道行く人々は皆、不安と焦りの入り交じった顔をしている。

 いつものような活気はなく、どんよりとした空気が町中に漂っている。


 ギルドへ着くと、町中とは違い(せわ)しなく人が行き来している。

 私はその様子を見ながらギルドへ入り、昨日と同じ部屋の扉を開けた。


「お、『烈火』と昨日の亜人の子たちじゃん。おっはー」


 中にはすでにダボルスさんたちのパーティが揃っており、その中の一人が気さくに挨拶してきた。

 昨日とは違って全員防具を身につけ、近くには武器が置いてある。


「おはようなの」

「……おはようございます」


 ミーシャとリルカに続いて私も軽くお辞儀しておく。


「……お前、その格好で行くのか?」


 ダボルスさんが私を見てしかめた顔を浮かべた。

 確かに、ダボルスさんの言いたいことは分かる。

今の私はブラウスにスカートと、とてもじゃないけど戦うような格好はしていないと思うからね。


 けど、そもそも防具なんて身につけるつもりはない。

 私は魔物、普通の人ほど()()じゃない。

 それに防具なんて着たら動きにくいし……。


 私が頷くとダボルスさんは軽くため息を吐いた。


「まいいや。お前らの分の備品はそっちの箱に入ってるから、準備しておけよ」

「……分かった」


 ダボルスさんが指差した箱の中を覗くと、瓶に入ったポーションや軟膏などがいくつか入っていた。

 これはありがたいね。

 私は箱からそれらを取り出すと、半分をリルカに手渡す。

 ミーシャは後方支援のため物資はなしと昨日言われている。

 他の冒険者に配ることも考えると、あまり在庫はないのだろう。


 アイテムバッグに薬品を詰めたところで、見計らったように扉が開き、受け付けのお姉さんが入ってきた。

 お姉さんは部屋の中をぐるりと見渡すと、口を開く。


「皆さま、お揃いですね。それでは、さっそく移動しましょう」


 お姉さんに続いて私たちはギルドを出る。

 来たときとはうって代わり、職員や町の人たちが口々に応援の声を投げかけてくれる。


「ダボルスさん、頑張って下さい!」

「おう、ありがとな!」

「兄ちゃんたち、帰ったら酒奢らせろ!」

「ははっ、楽しみにしておくぜ!」


 ダボルスさんやパーティの面々は、手を振ったり武器を掲げたりしなら、声援に応えていく。


 おお、凄い。

 このパーティ、特にダボルスさんは、かなり有名な冒険者みたいだね。

 もちろん、有名に足るだけの実力も持っていることは、醸し出す雰囲気でよく分かる。

 ヘラヘラした雰囲気のギルマスとは大違いだ。


 人ごみを抜けると、ダボルスさんは前を向いて顔を引き締める。

 そして誰に言うでもなく呟く。


「一歩間違えれば王都もろともあの世行きだ。だが俺はこの王都が好きだ。また酒場でみんなでばか騒ぎしてえ。だからぜってえ勝つぞ」


 ダボルスさん呟きに、私も含めた全員が深く頷くのだった。


 ◇◇


 西門から外へ出ると、遠くの地平にずらっと並ぶ大量の土嚢が見えた。

 あれが、昨日の作戦会議でギルマスが言っていたバリケードだね。


 バリケードを眺めていると、いつの間にかいなくなっていたお姉さんがギルマスを連れて戻ってくる。

 うん、これだけ人がいても、飛び抜けて大きいね。

 また、ギルマスの後ろから白銀の鎧を着た人たち――王都近衛騎士団が数人続いている。

 あの人たちがワイバーン討伐の手伝いをしてくれる騎士団の人たちかな。


「や、おはようさん。昨日はよく眠れたかい? 僕は緊張で全然だよ。今だってお腹がキリキリ痛くて――」

「ギルマスのお腹の話はどうでもいいです。時間がないので、さっそく状況を伝えます」

「どうでもいいって……。相変わらずひどいなあ」


 お腹を擦っていたギルマスは、お姉さんの言葉に肩を竦める。

 この人、前からだけどギルマスに容赦ないな。

 まあ、気持ちは分かるけど。


「魔物の大群は、予定通り真っ直ぐ王都へ向かって来ています。ワイバーンの位置も中央から変わっておりません」

「なら、昨日の作戦通りでいいんだな?」

「はい、問題ありません。それと、緊急用にこちらをお渡ししておきます」


 お姉さんは私たち全員に、十センチくらいの棒状の物を手渡してくれる。

 手渡されたものをよく見ると、前後と途中に穴があいている。

 もしかして、笛?


「……笛?」

「はい。もし緊急の事態になったときは、その笛を吹いて下さい。また、笛の音が聞こえた方も、余力があればそちらへ応援に向かって下さい」


 緊急の事態……。

 Bランクの魔物であるワイバーンを相手にする私たちにとって、つまりそれは、最悪の事態を意味する。

 その意味が分かったのか、笛を受け取った全員が顔を引き締めた。


「魔物の大群は昼頃に到着する予定です。それまでに指定の位置について下さい」

「お花さん、リルカさん、頑張ってね!」

「……ありがとう。頑張る」


 ミーシャの言葉にリルカが応え、私は返事代わりにミーシャの頭をくしゃくしゃと撫でる。


 さあ。

 またのんびりとした生活に戻るためにも、魔物なんてさっさと片付けますか!

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