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七十六話 魔法の本

「ありがとうございましたー!」


 店員さんに見送られ、私たちは店を出る。

 さて、この後はどうしようかな?

 洋服屋へ行ったのが昼過ぎだったとはいえ、まだ太陽は高い。


「……この後少し付き合って」


 私が首を捻って予定を考えていると、隣に並んだリルカから声がかかった。

 ん、珍しいね。

 何か用事でもあるのかな?


「どこ行くの?」

「……本屋」


 ミーシャが不思議そうに尋ねると、リルカからすぐに返事が返ってきた。

 おお、いいね。

 私、本大好きだわ。

 ……って、あれ、こっちの世界に来てからそんなに本読んだことあったかな?

 いや、前世の記憶でも図書室にいたし、もともと本好きなのか。


 まあ、それはともかく、私も本屋には用事があったんだ。

 前に冒険者ギルドに行ったときにも思ったけど、魔物や地理に関する本を買わないとね。


 私はリルカへ頷き返すと、リルカに「ありがとう」とお礼を言われた。

 むしろいつも付き合ってもらっているのはこっちだよ、と言いたくなる。


「……ここを少し歩いたところにある」


 いや、帰り道じゃん!

 わざわざ付き合ってなんて言うから、反対側か外れたところだと思ってたよ!

 私の心の突っ込みをスルーして、リルカとミーシャは話を続ける。


「何の本を買うの?」

「……新しい魔法の参考になる本を探すつもり」

「魔法の本なんてあるの?」


 ミーシャが以前の私と同じ質問をして、リルカは同じようにアイテムバッグから『初級魔法大全』を取り出してミーシャへと見せた。

 本を受け取ったミーシャはパラパラと捲ると、目を大きくする。


「わっ、たくさん魔法が載っているの!」


 ミーシャが夢中になって読むのを眺めながら、ふと思い出す。

 そういえば、この本って初級しかなかったんじゃ……?

 そんな疑問が顔に出ていたのか、私をチラッと見たリルカ話を続ける。


「……ボクが探しているのは戦闘技術に関する本。アルネが言ってくれたように『燐火』の使い道を模索したい」


 あー、スライムを倒しに行ったときの話だね。

 確か「得意分野は人それぞれ」みたいな偉そうなことを言った気がする。

 私みたいな素人の言葉をちゃんと覚えていてくれて、しかも実践しようとしてくれているんだ。


「魔法を極めるなら魔法以外も勉強するべき……。当たり前のことを見落としていた」


 リルカは少し落ち込んだ様子でしょんぼりと肩を落とす。

 しかしすぐに立ち直って、澄んだ目を私に向けてきた。


「これでもっと魔法が上達するかもしれない。アルネには感謝している」


 いやいや、どういたしまして。

 と言っても、私はそこまで考えてはいなかったから、リルカの勤勉さが一番の理由だと思うよ。

 まあ、今回は素直に頷いておくことにする。


 そんな話をしている間に、私たちは本屋へと到着した。

 案内された本屋は想像よりも意外と小さく、民家ほどの大きさの平屋だった。

 前世の書店……とは言わないけど、こっちの普通の店くらいはあると思ってたよ。


 中に入ると、壁一面の棚に本が並んでおり、さらには入りきらなかったのか床にも本が山積みにされていた。

 それが奥まで続いているのを見るに、倉庫なんてなくて、ここに置いてある本が全部みたいだね。

 さらに進むと本屋独特の古紙の匂いが鼻につく。

 うん、懐かしい匂いだ。


「いらっしゃい」


 私が懐かしさに浸っていると、近くで本を整理していたお爺さんが声をかけてきた。

 お爺さんは鼻に掛けていた眼鏡をクイッとあげると、先頭にいるリルカの顔をまじまじと見る。


「誰かと思ったら、魔女のお嬢ちゃんか。久しぶりじゃな」

「……お久しぶり」

「今日はどうした? 新しい魔法の本なら入ってきておらんぞ?」


 リルカは一瞬だけ残念な表情を浮かべたが、首を横に振る。


「今日は魔法の本じゃない。戦闘技術の本を探している」

「――ほう。ようやく別の本も読む気になったのか。どういう風の吹き回しじゃ?」

「別に……」

「後ろのお連れさんに諭されでもしたかの?」


 そこでようやく私たちに視線を向けてくるお爺さん。

 あ、気付いてなかったわけじゃないんだね。


「わたしはミーシャで、こっちはお花さんなの!」

「おお、親切にありがとうの。儂はここで本屋をやっておる、しがない老人じゃ」


 ミーシャの紹介にあわせて私もお辞儀しておく。

 顔をあげると、射抜くような鋭い眼光を眼鏡のうえから向けられていることに気付く。

 かと思いきや、すぐに目を逸らされてしまった。

 ――え、いまの何?


「そうじゃのう。戦い方に関しての本なら、こっちかの」


 私が戸惑っていると、お爺さんは素知らぬ顔でリルカを連れていってしまった。

 見間違い……だったのかな。

 眼鏡は老眼鏡だから、上から覗いただけ?


「お花さん、どうしたの?」


 難しい顔をしていたのか、ミーシャが心配そうな表情で覗いてくる。

 ……うん、きっと勘違いだろう。

 私は何でもないよと言うように、ミーシャの頭を撫でた。


 さて、それより私は私で目的の本を探すとするかな。

 私はざっと辺りを見渡すと、一人頷く。


 うん、この山から一人で探すのは無理だね。

 お爺さんに聞こうっと。

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