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八話 ボスとの遭遇

 蔓での移動を続けること数時間。

 日もてっぺんを通りすぎて傾き始めている。

 あれから食べ物――またさくらんぼ(仮)だった――を見つけて朝食兼昼食を済ませた私は、ひたすらに移動を続けていた。

 途中、角イノシシとは三回遭遇したけど、全て気づかれずにやり過ごした。

 ちなみに他のモンスターには出会っていない。

 思うに、このあたりは角イノシシの縄張りなんじゃないだろうか。

 それくらい他のモンスターの気配が一切ない。


 ただ、そう考えると不思議なことがある。

 角イノシシは正直強くない。

 あの角は確かに脅威だと思うけど、言ってしまえばそれだけ。

 そんな角イノシシたちが、縄張りを主張できるほどこの森のモンスターは弱いのか?

 答えは、たぶん違う。

 他のモンスターを見たことはほとんどないけど、そんなに甘くはないと思う。


 気を張りながら探索を続けていると、突然森が切れて開けた場所に出た。

 先はちょっとした下り坂になっており、あたりの草は踏み倒されている。

 嫌な感じがする。

 地面に降りて蔓を自由に使えるようにしてから、そーっと坂の先を覗きこむ。

 坂の下は大きな広場になっており、背の高い草で覆われている。

 そこには、何体もの角イノシシと、一際大きな角イノシシがいた。

 茶色の他とは違って黒い毛に覆われており、角もかなり太い。

 恐らくこの縄張りのボスなんだろう。

 黒角イノシシの周りには食べられそうな果物が積み上げられていた。


 なるほど。

 これでさっきの疑問は解消した。

 見るからに強そうなあの黒角イノシシがボスとなって、このあたりを縄張りにしたんだ。

 うん、関わらないほうがいいな。

 草むらの陰へ顔を引っ込めようとした時、突然角イノシシたちが一斉にこちらを見る。

 ひぃぃっ!

 声にならない声が出そうになる。

 いや、声は出ないんだけど!

 というか、なんでバレた!?


 角イノシシたちのうち数体が勢いよく駆け出す。

 慌てて近くの木に蔓を伸ばして身体を持ち上げた瞬間、坂を登りきった一体が私の真下を駆け抜けていった。

 あぶなっ!

 って、安心してる場合じゃない!

 枝に降りると、次々と木の下に集まってくる。

 うむむ。

 これからどうしよう?

 とりあえず気休め程度に毒花粉を散らしておく。


 しかし、それがいけなかったのだろうか。

 角イノシシたちが急に散り始める。

 何ごとかと目線を上げると、今まで静観していた黒角イノシシがおもむろに立ち上がるのが見えた。

 こちらに頭を、太く鋭い角を向け、勢いをつけるかのように地面を足で蹴っている。

 ……え、何?

 あいつ、この木に突っ込んでくる気?

 猛然と走り出す黒角イノシシ。

 ちょっ、まっ!

 ああもう!

 蔓を使って大きく跳ぶ。

 直後、後ろでバキバキッという木が折れる轟音が響き渡る。

 重力に従って地面へ叩きつけられる。

 っ! 痛いっ!

 受け身などとれるわけもなく、地面を転がる。

 でも、なんとか無事だ。


 急いで後ろを確認すると、さっきまでいた木が根本からへし折られていた。

 うわー。

 突進だけであの威力とか、ありえないでしょ。

 凄まじさに若干引いていると、木の向こうで黒角イノシシがじたばたともがいているのが見える。

 角が刺さったまま抜けなくなっているらしい。

 ……んん?

 もしかしてチャンス?

 今なら逃げられるんじゃない?


 身体を起こして視線を巡らせると、森の奥に角イノシシが並んでいるのが見えた。

 巻き添えを食らわないように、でも私が逃げられないように、大きく取り囲んでいるようだ。

 まあ、簡単にはいかないよね。

 となれば、残る手段は一つ。

 あの黒角イノシシを倒すしかない。


 ……あれを?

 ミノタウロスほどの巨体に、毒が回るまで逃げ切る?

 いや、ムリでしょ。

 身体の大きさもだけど、動き回られると花粉を吸い込ませ辛い。

 かといって足止めするのも難しい。

 木に登っても、さっきみたいに木ごと吹き飛ばされるだけだし。

 あれ、詰んでない?


 いや、一つだけ、倒す方法があるにはある。

 かなりの賭けになるけど……って迷ってる時間はないか。

 黒角イノシシが木片を吹き飛ばしながら脱出するのが見える。

 どうせ逃げられないんだ。

 やるしかないでしょ!


 蔓を伸ばして比較的高い木へ登る。

 黒角イノシシは何度か鼻を鳴らすと、私のいる木へと身体を向ける。

 見た目どおり、鼻はいいらしい。

 このまま見失ってくれればいいのに、という淡い期待は早々に砕かれた。

 さっきも臭いでバレたのかもしれない。

 まあ、今はどうでもいい。

 再び地面を足で蹴り、一気に迫ってくる。

 黒角イノシシが木へ衝突する手前で、私はその背中へと飛びついた。

 とっさに両手で黒い毛を掴む。

 すぐさま後ろの蔓二本を黒角イノシシの胴へ回して固定する。

 直後、木へぶつかったことによる衝撃が襲いくる。

 うぐっ!

 身体を密着させ、振り落とされないようにやり過ごす。

 よしっ!

 ここまでは想定どおり!


 背中に乗られたと分かったのか、暴れる黒角イノシシ。

 毛を掴む両手と胴に回した蔓に力を込めながら、前二本の蔓を伸ばして高く振りかぶる。

 さあ!

 私が振り落とされるのが先か、あんたが死ぬのが先か!

 根比べといこうか!

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