七十五話 服屋と魔道具
リルカの家に同居して数日後。
ミーシャの服と私のローブを買うため、私たちは三人で洋服屋へ来ていた。
「わあ、可愛いお洋服がたくさんあるの」
「……ボクのお気に入りの店。値段もお手頃」
ミーシャがきゃっきゃと服を手に取るのを横目に、私は近くの値札を見てみる。
うん、安くはないけど、これなら十分払える。
生地も手触りがいいし、何より可愛い服が多いのが気に入った。
「いらっしゃいませ。あら、リルカちゃんじゃない」
「……こんにちは」
「なになに? 今日はお友だちと来てくれたの?」
私たちに気付いたのか、テンション高めの店員のお姉さんが近付いてきた。
「そう。そこの子の服を見にきた」
「え、何この子、かわいいー!」
「きゃっ!」
リルカに指差されて始めてミーシャに気付いた店員さんは、駆け寄るとミーシャを抱きしめ頬擦りし始める。
ミーシャはなすがままにされているが、嫌そうな顔はしていないので見守ることにする。
――やぶ蛇をつつかないとも言う。
「きみのお洋服を選べばいいのかな?」
「え、えっと、うん」
「よーしっ! お姉さん、張りきっちゃうぞ!」
店員さんは気合いを入れるように腕捲りをすると、洋服の山をゴソゴソと漁り出した。
うん、ここはあの人に任せて、私はローブでも見てくるかな。
ミーシャの「置いていくの?」と言いたげな視線をスルーして、私は店の一角にあるローブを見に行く。
ローブにはいくつか種類があるようで、リルカの着ているようなもの、コートのように前の開いたもの、ミーシャが使っているフード付きのレインコートみたいなものもある。
私の場合は目立つのを避けるのが目的なので、頭まで隠せるフード付きのものを順に見ていく。
色は……緑?
いや、無難に茶色にしておこうかな。
「……アルネ。これはどう?」
いつの間にか隣に立っていたリルカが、一着のローブを私に手渡してくる。
広げてみると、胸元や裾の部分に小さな赤い花飾りがついている。
お、可愛いじゃん!
色も薄めの落ち着いた緑だし、花飾りもほとんど目立たない程度だ。
しかもフードもついている。
私はリルカに向き直ると、いいねと笑顔で頷く。
「気に入ってくれたようで嬉しい」
そう言ってリルカも頷き返してくれる。
リルカのお陰ですぐにローブが決まってしまったので、仕方がなくミーシャの所へと戻る。
まあ、助けてあげるかな。
「ああ、これも似合うし、こっちも捨てがたいわ!」
「もう、それでいいの」
「いやいや、今度はあれも着てみましょう!」
「お花さん、助けてー」
あ、すでに手遅れだった。
洋服が山のように積み上がった中心で、ミーシャは店員さんの着せ替え人形と化していた。
◇◇
「お花さん、リルカさん、似合う?」
デザインはシンプルだけど、フリルや飾りをあしらった白色のワンピースを着たミーシャが、指で裾を摘まんでくるりと回る。
うん、ミーシャの黒髪やしっぽには、白のワンピースはよく映えるね。
私が頷くと、ミーシャは嬉しそうにパッと笑顔を咲かせる。
「うん。とてもよく似合ってる」
「えへへ」
あれはこのまま着て帰ればいいかな。
他のミーシャの私服を何着かと、私のローブをあわせてカウンターへ持っていこうとした時だった。
店の奥を覗いたミーシャが振り返って私たちを呼ぶ。
「二人とも! 奥にアクセサリーもあるの!」
へえ、アクセサリーか。
まだ時間もあるし、ちょっと見ていこうかな?
「あ、そちらはアクセサリー型の魔道具が置いてあるスペースです!」
ミーシャの声に応えるように、さきほどの店員さんが声をかけてくる。
魔道具?
もしかして、テアさんが着ていたようなケープとかあるの?
「まどうぐ?」
「魔道具というのは、魔石を埋め込んだ特殊なアクセサリーのことですよ。かなり値が張るんですが、自衛のために貴族様や商人の方がよく買われていかれるんです」
「えっと、お花さんの靴みたいなもの?」
「――えっ!?」
店員さんとリルカが、同時にバッと私の足に視線を向ける。
あー、ミーシャに口止めしておくの、忘れてた……。
「ちょっ、ちょっと見せてもらえます?」
「ボクも見たい。見せて」
二人がグイグイと顔を寄せてくる。
ああ、この二人、似た者同士だ。
――って、分かった、分かったから!
見せるから押さないで!
私はいったん二人を引き剥がして宥めると、店員さんの用意してくれた椅子に座ってブーツから足を抜く。
私がおずおずと差し出したブーツを、リルカがひったくるように受け取り、眺め始めた。
ううっ……今まで履いていた靴を見られるのって、意外と恥ずかしいわ。
「……これが魔石。でも何の魔法が込められているのか分からない」
「ふふんっ、リルカちゃん、魔石に関してはまだまだね! お姉さんに貸してみなさい!」
「……くっ!」
リルカが珍しく悔しそうな表情を浮かべて、店員さんにブーツを手渡す。
ブーツを手にしたお姉さんは得意げな顔で、
「私はこれでも鑑定士の資格を持った、商人ギルドの一人なのよ。私にかかれば魔石の解析くらいお手のものよ」
と自慢気に言ってから、ブーツの魔石を眺め始める。
うん、それフラグだからね。
「どれどれ…………ん? ……え、何この高度な魔法? 分からないんだけど。これ作った人、頭おかしいんじゃないの?」
あ、やっぱり。
というか、頭おかしいって……。
エリューさん、あのブーツの魔石に一体どんな魔法込めたのよ。




