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間話 憧れの冒険者

 私はファルムンド王国四大貴族の一つ、西のウェスタンシア家の次女として生まれた。

 ウェスタンシア家の治める西の土地には豊かな平原が広がっており、ウィードという作物を中心とした農業が栄えている。

 そのため領主も領民も豊かな暮らしができていた。


 平原には強くてもCランクの魔物しか生息しておらず、また討伐にやってくる冒険者も多いため、魔物の脅威は少ない。

 さらに西には大森林が根を下ろしているため、隣国からの襲撃を危惧する必要もない。

 まさしく『平和』を体現したかのような場所で、私は何不自由なく、すくすくと育っていた。


 あれは私が五歳の誕生日を迎えた頃だったか。

 私とお姉様は両親に連れられ、王城で開催されるパーティに参加するため王都へ向かっていた。

 私はパーティが嫌いで、馬車の中で行きたくないと駄々をこねていた。

 元々表情に乏しかった私は、作り笑顔で他の貴族の社交辞令を聞き流すだけの時間が辛くて仕方がなかったのだ。


 そんな私のわがままが最悪の形で叶ったのか。

 私たちの乗っていた馬車が突如として魔物に襲われた。

 平和な平原に存在するはずのないAランクの魔物――『ドラゴン』に……。


 全員が死を覚悟した。

 護衛の冒険者たちは勇敢に立ち向かったが、大木よりも太い尻尾で一薙ぎされただけで瀕死となった。

 私はお姉様にしがみついて泣きじゃくっていた。


 そこに颯爽と現れたのが、当時Aランクの冒険者だった女性だった。

 燃えるような長い赤髪をなびかせ、踊るように宙を舞い、見たこともない魔法を使って、一人でドラゴンと渡り合っていた。

 やがて満身創痍となったドラゴンは、逃げるように去っていった。


 その後のことはよく覚えていない。

 女性はいつの間にかいなくなっていたらしいし、また私たちもパーティどころではなくなって領地に引き返したらしい。

 覚えているのは、領地に戻ってすぐに魔法の訓練を始めたことだけだ。


 やがて十一歳の誕生日を迎えた私は、一人領地を出た。

 命の恩人である、あの女性と同じ冒険者となるためだった。

 どうやら神隠しにあったと噂されているみたいだけど、今となっては関係のないことだ。


 相乗り馬車を乗り継いで王都に着いた私は、一人称を変え、名前を偽り、冒険者となった。

 憧れの女性がすでに行方を眩ましていると知った時はショックだったが、いつか再会できたときに共に戦えるようにと依頼をこなしていった――。



 そして、ボクは今、『烈火』という二つ名のCランク冒険者として活動をしている。

 最近では、珍しい魔法を使う二人組とパーティも組み始めた。


『どうかした?』


 二人組のうち、ボクと同じCランクの子が、黒板片手に顔を覗き込んできている。

 緑の肌に緑の髪――本人は素知らぬふりをしているが、どう見ても普通の人や亜人ではない。

 けれど、人には秘密の一つや二つあるものだ。


 ボクは首を横に振り、答えた。


「……なんでもない」

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