七十四話 衝動買いって怖いね
「……また来る」
「ああ。店にいるときは歓迎してやるよ」
ルットマンさんの雑貨屋で日用品を買い揃えた私たちは、挨拶もそこそこに店を出る。
ちなみにルットマンさんはまた明後日から行商に出るらしく、結構良いタイミングだったらしい。
その後、家具屋へ向かい、そこでタンスとダブルベッドを購入した。
もともとベッドは二つ買う予定だったが、ダブルベッド一つの方が安かったので、思わずそっちを選んでしまった。
まあ、村にいたときは同じベッドで一緒に寝ていたし、いまさら気にすることもない。
購入した家具は店の人が運んでくれるらしく、届けるまでは家で待っている必要があると言われた。
うーん。
本当は服とかも買いたかったけど、今日は諦めよう。
リルカは「一人で待っている」と言ってくれたが、初日から家主一人に任せて買い物に出掛けるのも気が引ける。
そんなわけで、私たちはお昼時にはリルカの家――今日からは三人の家――に帰ってきたのだった。
「お花さん、この後はどうするの?」
お店で買ってきたサンドイッチを食べた後、一休みしていた私は、ミーシャの質問にしばし考え込む。
といっても、できることは限られる。
……まあ、今日は妥当に掃除でもするかな。
『掃除』
私はそう黒板に書くと、ミーシャに向ける。
前に部屋を見せてもらったときは綺麗だったけど、しばらく使っていない以上は多少ホコリも溜まっているだろうし、換気も必要だ。
「分かったの。リルカさん、お掃除の道具ってある?」
「……箒と桶が倉庫にしまってある。雑巾は適当なタオルを使えばいい。今用意する」
「わたしも一緒に行くの」
リルカとミーシャが揃って部屋から出ていくのを見送った私は、椅子から腰をあげる。
さ、私は窓を開けて換気でもしておくかな。
◇◇
ベッドとタンスが届いたのは、ちょうど部屋の掃除が終わった頃だった。
部屋のドアと反対側の壁際にベッドを置き、その隣にタンスを置いてもらう。
二人で使うにはタンスが小さすぎる気がするけど、足りなくなったらまた買い換えればいい。
それに、私は服の替えなんて持ってないから、実質ミーシャ一人分だけだ。
あ、下着の替えくらいはちゃんと持ってるよ。
布団や毛布は、使っていないものをリルカが譲ってくれた。
「……終わった?」
完成した部屋を見渡して満足していると、リルカがドアから顔を覗かせた。
私たちが部屋の掃除を始めた頃から、書斎に引き込もっていたのだ。
「うん、終わったよ」
「……それは良かった。少し早いけど夕食の用意をする。手伝って」
「分かったの!」
ミーシャが元気よく頷いて歩き出そうとしたところを、私は手を取って引き留める。
そして、自分とミーシャの身体を順に指差す。
掃除して汚れたままで、ご飯の用意はしたくないよ?
「――あ。確かに汚れてるの」
「それなら先にお風呂に入るといい」
リルカは立ち止まると、振り返ってそう提案してくる。
そうだね、今回はお言葉に甘えるとするかな。
「……使い方は分かる?」
「うん、宿屋のお姉さんに教えてもらったよ! 水を貯めて、魔石でお湯にするの!」
「それで合ってる。水は隣のタンクに貯めてあるから自由に使って。足りなくなったら魔法で補給すればいい」
あ、なるほど。
私は水魔法使えるし、自分で補給すればいいんだ。
今更ながら、魔法って便利だよね。
……うん?
そういえば、リルカって水魔法使えないんじゃなかった?
『水魔法 使える?』
私はそう黒板に書いてリルカに見せる。
リルカは首を捻るが、思いあたる節があったのか、すぐに手を打つ。
「水を出すくらいならできる。攻撃には到底使えない」
あ、それくらいならできるんだ。
魔法が使える、使えないの定義が難しいな。
今度、リルカに詳しく教えてもらおう。
◇◇
「ごちそうさま」
「……口に合ったようで何より」
「ううん、凄くおいしかったの! お花さんと同じくらい!」
「……ほう。それは気になる。明日が楽しみ」
あ、今、変にハードル上がったよね。
別に私、料理が得意ってわけじゃないんだけど……。
それはともかく、ミーシャの言うとおり、リルカの作ってくれた夕食はおいしかった。
パンは買ってきたものだけど、カボチャのような味の野菜のポタージュに、野菜やきのこを入れたキッシュ、鶏肉の香草焼き。
どれも店で売られていてもおかしくないほどのレベルだ。
一人暮らしで冒険者をやっているから――というだけではない気がする。
実家が食堂とかかな?
まあ、私に魔物という秘密があるように、リルカにだって深入りされたくないことくらいはあるはずだ。
無理に聞こうとは思わないし、するつもりもない。
「……ふわぁ。お腹いっぱいになったら、なんだか眠くなってきたの」
あはは、食べてすぐ横になると、消化に悪いよ。
もう少しだけ起きていようね。
「……ボクはお風呂に入ってくる。本当に片付けは任せていい?」
「うん、大丈夫なの」
ミーシャが眠たそうに返事をする。
私はミーシャの頭に手を置くと、リルカの方を向いて頷く。
作るのはほとんど任せっきりだったし、それくらいはやるよ。
「分かった。じゃあ任せた」




