七十三話 三人デート
「またいつでも泊まってくださいね!」
「うんっ!」
翌日、朝食をとった私とミーシャは、宿屋の女の子に見送られながら宿屋を後にする。
値段は手頃だし、料理はおいしかったし、なによりお風呂もついていたので、大満足の宿だった。
スズハさんには感謝しないとね。
そういえばこの四日間、一度も他の従業員に会ってない気がする。
まさか一人で切り盛りしているわけじゃないよね?
……って、そんなわけないか。
「お花さん、どうかしたの?」
なんでもないよ。
ちょっと馬鹿なこと考えていただけだよ。
安心させるようにミーシャの頭を撫でる。
うん、相変わらず撫で心地のいいさらさらの髪だね。
そんなことをしながら、朝日に照らされた石畳をのんびりと歩く。
商業地区だからか、すでに通り沿いでは露店や店が開かれており、賑わいをみせている。
みんな買い物や商売に夢中で、私やミーシャを見て驚く人もほとんどいない。
いくつか露店を覗いてみると、ミーシャの村とは違って布類や装飾品が多く感じる。
さすが王都というところか。
あー、そういえば、どこかでローブ買わないといけないなあ。
変に街中で目立つのは避けたい。
ドワーフさんに作ってもらった腕輪があるから魔物だとバレることはないとは思うけど、用心するに越したことはない。
「あ、リルカさんだ!」
待ち合わせ場所へ到着すると、すでにリルカが建物に背中を預けて待っていた。
いつものとんがり帽子とローブではなく、白いブラウスに長めの丈のワンピース、頭にはつばの広い帽子を被っている。
おお、いつもと雰囲気が違って可愛い!
まるでどこかのお嬢さまみたいだね。
うーん。
私はともかく、ミーシャって同じような服ばかり着ているよね。
リルカのおかげでお金にかなり余裕ができたし、今日ついでに買っておこうかな?
「……おはよう」
「おはようなの、リルカさん!」
「今日は何を買う予定?」
リルカの挨拶に会釈で返したあと、私は黒板を取り出す。
えっと――。
『家具 日用品 服』
これくらいかな?
黒板をリルカに見せると、リルカは少し考える仕草をしたあと、すぐに頷いた。
「……それならまずは日用品を買いにいく。近くに知り合いの店を知っている。値切りもできると思う」
おー、ありがたい!
余裕があるとはいえ、節約できるときに節約するのが私のモットーだ。
まあ、前世の記憶なんてほとんどないし、モットーなんて適当だけどね!
「案内する。こっち」
私が頷くのを確認すると、リルカは私たちが来た道とは逆を指差し、私の隣に並んで歩き出す。
私は右側にリルカ、左側にミーシャと挟まれた状態になる。
これ、まさしく両手に花だね。
二人とも可愛いし、男からしたら私のポジションは羨ましいだろうね。
私を挟んでミーシャとリルカが喋るのを聞きながらしばらく歩くと、一軒の小さな店へと到着する。
外見は綺麗なレンガ造りの店だけど、なんというか、あまり営業しているようには見えない。
「ここなの?」
「そう。普段は行商をしているから留守だけど。ここ最近はいるはず」
そう言うとリルカはドアを押して店へと入っていく。
私とミーシャも続いて中に入ると、棚や机に小物が整頓されて並んでいるのが目に映る。
天井からはお洒落な照明が下がっており、店の中を優しく照らしている。
へえ、中は可愛い雰囲気だね。
どんな人がやっているのかな。
「いらっしゃ……い……!?」
「――あ、ルットマンさんなの!」
「な、なんであんたたちがここに!? この店のことは言った覚えはないぞ!?」
「……依頼主のことを探っておくのは冒険者として当然」
カウンターの向こうで椅子をガタッと揺らして立ち上がり、驚愕の表情を浮かべるルットマンさん。
対するリルカはいつもの無表情でブイサインを送る。
あー。
なるほど、知り合いってルットマンさんのことだったのね。
というか、ぶっきらぼうなルットマンさんにしては、可愛いお店だね。
「変な依頼主だとこちらも危険。冒険者は自衛が大切。覚えておくといい」
ルットマンさんの反応に満足したのか、腕を下ろしたリルカは私とミーシャに顔を向けてアドバイスしてくれる。
あはは、覚えておくよ。
「分かったの!」
「はあ。もういい分かった、俺の負けだ。で、何の用だ? 冷やかしなら帰ってくれよ?」
「……二人の買い物で来た。アルネ。必要なものはありそう?」
私はざっと辺りを見渡すと頷く。
食器やタオルなど、新しく買わないといけないものは一通り置いてありそうだ。
一昨日のうちにリルカの家にあるものは確認済みで、リルカと相談して使わせてもらうことにしてある。
「それなら良かった」
「ここに置いてあるのは、俺が行商をしながら手に入れた良い品ばかりだからな」
私は近くにあったコップを手に取って見てみる。
確かに、造りがしっかりしていそうな……気がしなくもない……。
……うん、分からないわ。
「お花さん、このタオル、フカフカなの!」
店内を色々と見ていたミーシャが、棚にあったタオルを触りながら声をかけてくる。
どれどれ……おお!
これは確かにフカフカで気持ちいい。
うん、これはぜひとも買っておこう。
その後もしばらく、私とミーシャの物色は続いた。




