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七十二話 恥ずかしぬ!

「お花さん、リルカさん! 三十個集まったの!」


 何度目かの休憩をしていると、ミーシャが皮袋を片手に駆け寄ってくる。

 三十個というのはスライムのコアの数だ。

 私たちが受けたスライム討伐依頼は、十体ごとでのカウントとなる。

 なので、三十体を目標にしていたのだ。


「……それは良かった。もうすぐ暗くなり始める。早く撤収する」


 リルカはミーシャの言葉を聞くや否や、黒色の杖をアイテムバッグに戻す。

 そして近くの木に繋がれた馬の手綱をほどくと御者台に飛び乗った。

 手際いいね。

 私も冒険者を続けるなら、馬の扱い方くらい覚えないといけないかな。


「……早く乗って。門が閉まる前に着かないと野宿になる」


 ――え、野宿っ!?

 というか、門限とかあるの!?

 そういう大事なことは教えておいてよ!

 私はミーシャを脇に抱えると、蔓を伸ばして荷台に飛び乗った。


「あわわっ!」

「少し飛ばす。揺れるから気をつけて」

「わ、分かったの――!」


 ミーシャの返事が終わる前にリルカは手綱を引き、馬車が動き出した。

 抱えたままのミーシャをおろすのと同時に、御者台に座るリルカから「アルネ」と呼び声がかかる。

 今度は何よ?


「あれ片付けて」


 リルカが指差す方――進行方向に目を向けると、グラススライムの巨体が道を塞いでいるのが見える。

 ――って、ぶつかるよ!

 私は慌ててウォーターボールを作ると、スライムに向かって打ち出す!

 馬車から飛んでいったウォーターボールがスライムを倒し、ぎりぎりで溶けた身体の上を馬車が通っていった。

 あ、あと少し遅かったら、スライムに突っ込んでたよこの馬車!


「……ナイスアシスト」


 リルカが前を向きながら、親指を立てた手だけ横に突き出す。

 ナイスアシスト、じゃないわー!

 オレンジ色の草原の中、私は心の中で叫んだ。


 ◇◇


「はい、ご苦労様でした。グラススライムのコア三十個、確かに確認しました。こちらが討伐報酬の銀貨となります」


 なんとか門の閉まる前に王都へ戻ってきた私たちは、借りた馬車をギルドに返したあと、受け付けで依頼の報告をしていた。

 そして周りでは、私たちを囲うようにして冒険者が集まってきていた。

 一体何なの、これ?


「おい、グラススライム三十体だとよ」

「『烈火』一人でやったんじゃねえのか?」

「いや、さすがに昨日の今日で一人は無理でしょ」

「ってことは、あの花と獣人がやったのか?」


 周りからヒソヒソと話し声が聞こえてくる。

 ミーシャは居心地悪そうに私の陰に隠れているが、リルカは素知らぬ顔で報告を続けている。

 リルカ、人混みが苦手なんじゃないの?

 それとこの有象無象は別なの?


「それでは、またお越し下さい」

「ありがとう」


 リルカはコアと交換に受け取った銀貨をアイテムバッグに入れると、私とミーシャを振り返る。

 あ、いつもより深めにとんがり帽子を被ってる。

 やっぱり人目は気になるんだ。


「……二人とも。報酬を分けるから一度家に来て」


 リルカの言葉に私は首を横に振り、完全に日の落ちた外を指差す。

 もう遅いし、また明日でいいよ。


「……分かった。それならまた明日渡す」


 リルカもすぐに理解してくれたのか、頷いて銀貨の袋をアイテムバッグに片付けた。

 そして私とミーシャの手を取ると、周りの冒険者たちに目を走らせる。

 冒険者たちは、海を割るようにリルカの通り道を空けていく。

 え、何、この状況?


「道ができたの」

「あはは。いつも通りですね」


 ミーシャが口に出した言葉に、受け付けのお姉さんが笑って答える。

 ちなみに、私とミーシャの手続きをしたお姉さんとは別の人だ。


「いつも通り?」

「はい。数年ほど前、リルカさんが初めてこのギルドにいらした時からですね。リルカさんにちょっかいを出そうとした冒険者の一人が、返り討ちに会いまして。『烈火』という二つ名もその時に――」

「もういい。早く行く」

「わっ、引っ張らないでリルカさん」


 恥ずかしいのか、受け付けのお姉さんの話を遮って歩き出すリルカ。

 帽子の下、金髪の隙間から見える耳が少しだけ赤くなっている。


「またお越し下さいね」


 そんなリルカを見て頬を緩ませたお姉さんが、手を振りながら見送ってくれる。

 ギルドから外へ出ると、気持ちのいい夜風が吹き抜ける。

 リルカはそのまま少しだけ歩くと、ようやく私たちの手を離す。

 目深く被っていた帽子を上げながら、リルカは振り返った。


「……今日は楽しかった。明日も同じ場所でいい?」


 リルカの質問に私は頷く。

 馬車の中で明日の予定を話していたとき、リルカが案内役を買って出たのだ。

 そこまでしてもらうのは悪いからと始めは断っていたが、リルカとしては遊びに行くような感覚らしいので、お願いすることにした。

 まあ、王都の地理はまだよく知らないし、案内してくれる人がいると心強いのは確かだよね。


「……じゃあまた明日」

「おやすみなさい、リルカさん」

「うん。おやすみ」


 リルカは手を振りながら、通りへと消えていった。

 さ、今日は疲れたし、早くお風呂入って寝ようかな。

 私はミーシャと手を繋ぐと、宿屋へ向かって歩き出した。

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