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六十九話 突撃隣の子の家

「今日は準備を整えて明日出発する」


 え、これから行くんじゃないの?

 横を歩くリルカの言葉に私は驚いて顔を向ける。


「……王都から馬車で少しかかる。明日の朝出発するのが得策。それに準備は大事」


 リルカはチラリと一瞬だけこちらを見るが、いつもと変わらない表情で答える。

 いや、準備が大切なのは分かるけどさ。

 明日の朝に出発ってことは、帰ってきたときに泊まる場所がなくなる、つまり宿屋の宿泊期間を延長しないといけないわけだ。

 それなら今日中にどこか空き家を購入しておいたほうが特だよね……。


「……何か悩み事? できることなら協力する」


 しばらく悩んでいた私を見かねたのか、リルカが尋ねてくる。

 そういえばリルカは王都に住んでいるんだよね。

 王都には詳しいだろうし、相談してもいいかな。


 私たちは近くの出店で早めのお昼としてウルフ肉の串焼きを購入すると、ベンチに並んで腰かける。

 お肉を食べ終えると、私はアイテムバッグから黒板を取り出して膝の上に置き、


『家 購入』


 と書いて右隣に座るリルカを見た。

 リルカはしばらく小さな口をモゴモゴと動かしていたが、やがて飲み込むと口を開く。


「……宿屋では駄目?」

「お金がかかるから宿屋には泊まりたくないって昨日言ってたの」

「そう……」


 私が書く前に左側にいるミーシャが身を乗り出して答える。

 ミーシャには昨日の夜のうちに話しておいてある。

 本当はあまり心配かけたくないけど、今の私とミーシャは一蓮托生だし、隠し事はなしだ。


 リルカは帽子の鍔に手をかけると、何かを考えるように少しだけ顔を下げる。

 どこか不動産屋でも紹介してくれるとありがたいんだけど。

 そう思いながらリルカを見つめる。

 やがて顔を上げたリルカの口から、とんでもない言葉が飛び出した。


「……それならボクの家に来る?」


 ……うん?

 え、今なんて言った?

 リルカの家に行くって、つまりリルカの家に私たちも住むってこと?


「部屋は余っている。使わないともったいない」

「お部屋が余ってるの?」

「そう。何部屋か余っている」


 ミーシャが不思議そうに首を捻っている。

 確かに、ミーシャの村だと部屋が余るという発想は生まれないよね。

 あの村は必要なサイズの家を必要な時に作る感じだし。


 というか、何部屋か余ってるって、どれだけ大きな家に住んでいるのよ。

 もしかしてリルカってお金持ち?

 庭にプールが付いている豪邸に住んでるの?


「……どうする?」

「お花さん、どうするの?」


 左右から純粋な目で見つめられる。

 うん、変なこと考えてる場合じゃないね。

 私は頭の中から邪な考えを追い払うと、右手のチョークを動かす。


『見学』


 やっぱり見てみないことには決められないよね。

 黒板を覗き込んでいたリルカは突然立ち上がると、こちらに向き直る。


「……案内する。着いてきて」


 その言葉とともに、リルカの白く細い指に握られた木串がボッと音を立てて燃え上がった。


 ◇◇


 リルカの家は冒険者ギルドから三十分ほど歩いた住宅地区、その中でも比較的中心部に近い位置にあった。

 鉄製の柵の向こう側には数メートルほど庭が広がっており、その奥には周りの家と同じく赤いレンガ造りの二階建ての家が建てられている。

 プール付きの家とは言わないけど、一人で住むにはちょっと大きすぎる家だ。

 ……そういえば、一人で住んでるんだよね?


「凄いの! 村長の家より大きいの!」


 リルカの家を見てミーシャがはしゃいでいる。

 うん、村と王都じゃ色々と違うし、村長の家と比べるのはやめてあげよ?


「気に入ってくれたようで嬉しい。……ところで村長って誰?」

「え? 村長は村長だよ?」

「……そう」


 追及するのは諦めたのか、リルカは鉄格子の門を手際よくあけて私たちを招き入れてくれる。

 芝のような草が茂っているだけの庭を横目に歩くと、やがて木材のドアが見えてきた。

 リルカは一人早足で向かうと、ローブの内側を漁り始める。


 歩きながらざっと眺めた感じだと、窓もカーテンも全て閉まっているし、誰かと一緒に住んでいるわけじゃなさそうだね。

 やがてガチャっと鍵の回す音が鳴ると、ドアが開いた。


「……入って」


 お邪魔しますー。

 リルカに着いて中に入ると、まず見えてきたのは広い玄関ホールだった。

 カーテンが閉まっているためか少し薄暗いが、木造の綺麗な壁や床が見える。

 また、床には何かの動物か魔物か、毛皮の絨毯が敷かれている。


「……ここで靴を脱いで」

「えっと、靴脱ぐの?」

「そう。土足禁止」


 リルカの指差すところが段差になっており、そこから木造の床が続いている。

 お、靴脱ぐんだね。

 ミーシャの村だと靴を脱ぐ習慣がなかったから、この感じはひさびさだ。


 ミーシャとリルカが靴を脱ぐ隣で、私もブーツから足を抜く。

 実はこのブーツ、それに服も、全て村を出るときにエリューさんから餞別として貰ったものだ。

 ブーツに至っては魔石が組み込んであり、魔道具となっているらしい。

 ただ、エリューさんいわく、


「ここぞというときにだけ使いな」


 だそうだ。

 ちょっと意味が分からないよ、エリューさん……。

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