表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/164

六十八話 聞かぬが優しさ

 ギルドの奥にある個室に連れていかれた私とミーシャは、高そうなソファに並んで腰かけていた。

 対面にはリルカが同じくソファに座っている。

 また、ドアの前には腕組みをしたギルマスが立って――。


「……なんでいるギルマス」

「ちょっと面白そうだから?」

「出ていけ」

「えー、つれないなあ」


 リルカに睨みをきかされたギルマスは、両手をあげて「はいはい」と言いながらドアから出ていった。

 暇なのかな、あの人。

 リルカはドアが閉まるのを確認した後、私とミーシャの方へ顔を戻す。


「……あらためておはよう。昨日の今日で会うとは思わなかった」

「おはようなの」


 私も挨拶と同意の意味を込めて頷いておく。

 まさかこんなに早く再会するとはね。

 まあ、リルカも冒険者なんだし、冒険者ギルドにいれば会うのは当たり前か。

 リルカは私とミーシャの首もとにチラリと一瞬だけ視線を下げる。


「……冒険者になれたんだ」

「うん、わたしがEランクで、お花さんがCランクだよ」

「おめでとう。その歳でEランクは凄い。Cランクもさすがといったところ」


 リルカの返事に嬉しそうに笑顔になるミーシャ。

 座っていて見えないけど、しっぽがパタパタ動いてそうだよね。


 ところで、リルカは依頼を受けに来たのかな?

 私は黒板を取り出すと『依頼?』と書いてリルカへ見せる。


「そう。依頼を見に来た」

「リルカさんはどんな依頼うけるの? わたしとお花さんも見に来たんだけど、たくさんあって迷っているの」

「……確かに依頼はたくさんある。ここは王都だから特に多い」


 そうか、なるほどね。

 あの依頼の多さは王都ならではのものか。

 他の町の冒険者ギルドは見たことないから、あれが普通だと思ってたよ。


「……ボクが受けるのは護衛か討伐がほとんど。特に護衛は楽しい」


 楽しいかどうかはともかく、護衛かあ。

 私とミーシャを雇ってくれる人なんていなさそうだよね。

 ルットマンさんも始めは私たちを乗せるのは嫌そうな顔してたし。


 うーん。

 やっぱり、村でもやっていたように、魔物を討伐してその素材を売るのが一番かな。


『討伐依頼 受け方』


 私はそう書いた黒板をリルカへ見せる。

 黒板を見たリルカはしばらく悩む素振りをした後、視線をあげて尋ねてくる。


「……分かった。ただし一つ条件がある」

「条件?」

「そう。ボクも一緒に依頼を受ける」


 えっ!?

 なにそれ、むしろこちらからお願いしたいくらいだよ!

 リルカの人となりや強さは知っているし、大歓迎だ。

 リルカの気が変わらないうちに私は頷いておく。


 隣でミーシャも「一緒なの!」とはしゃいでいる。

 馬車で数日一緒だったからミーシャもなついているしね。


「……交渉成立。それで何の魔物の討伐を受ける?」


 私は首を横に振る。

 まだ何も決まってないよ。

 というか、この辺りに生息している魔物の種類も分からないし。

 知っている魔物といえば、馬車を襲ってきたグラスウルフくらいだ。

 ……今度、本屋に行って魔物図鑑みたいな本を買っておこうかな。


「オススメはグラススライム。Dランクの魔物。けど一度依頼ボードを見に行く?」


 再び首を横に振っておく。

 どうせ見ても多すぎて決められないし、何よりまた絡まれるのは面倒だ。


 それよりも、グラススライムと言ったのが気になる。

 いや、スライムは分かるんだけど、あのゼリー状のスライムのことでいいの?

 某RPGの最弱モンスターとして出てくるあのスライム?


 私が首を捻っていると、隣のミーシャも分からなかったのか同じようにポカンとしていた。


「すらいむって何?」

「……スライムは水の塊のような魔物。大きさは人より少し大きいくらい。動きは遅いけど剣や槍などの武器は通じない厄介な魔物」

「それじゃあどうやって倒すの?」

「弱点は魔法。威力のある魔法を当てれば簡単に倒せる。いい練習台になる」


 そう言って微笑を浮かべるリルカ。

 なるほど、リルカも私も魔法が使えるからね。

 討伐依頼をこなしながら魔法の練習ができるなら、まさしく一石二鳥。

 魔法が好きなリルカらしい提案だ。


 私は頷くと、リルカに向かって握手を求めるように右手を差し出す。

 リルカも応えるように右手で握り返してくれた。


 ◇◇


「おい、烈火が出てきたぞ」

「一緒にいるのは誰なんだ?」

「噂だとCランクの新人らしいぜ」

「ははっ、なんだそりゃ」


 部屋から出てきた私たちを遠目で見ながら話す冒険者たち。

 あ、まだいたんだ。


「……この時間は依頼を受けに来る冒険者が多い。絡まれたくないなら時間をずらすのが得策」


 横目で冒険者たちを睨みながら、私とミーシャだけに聞こえるような声で呟くリルカ。

 ああ、昨日は昼過ぎてたから静かだったんだ。

 今後は気をつけるとするかな。


「リルカさん。()()()って何?」

「それは……」


 ミーシャの何気ない質問に、リルカは言いづらそうに口籠ってしまう。

 ミーシャさんや、それは聞かないであげるのが優しさってものだよ?

 結局ミーシャの質問は聞こえないふりをして、リルカは依頼の受け付けを終わらせた。


 ちなみに、スライムの討伐は不人気らしく、常設依頼になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ