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六十七話 友だち

 その後も細々(こまごま)とした説明を受けた私たちは、日が暮れかけた頃にようやくギルドを後にした。


「つかれたの……」

「そうですね、私も少々疲れました」


 そう言うとスズハさんは改まった様子で私のほうを向く。

 うん? 何かな?


「私は明日から通常の業務に戻る必要があるので、案内できるのは今日までとなります。その腕輪とギルド証があれば、よほど目立たない限り魔物だと気づかれることはないでしょう。これで少しでも恩を返せたらよいのですが」


 スズハさん……また恩とか言ってるし。

 いい加減私も面倒になってきたよ。

 私は黒板を取り出すと、一言だけ書いてスズハさんに見せつけた。


『友だち』


 黒板を見たスズハさんはハトが豆鉄砲を食ったような顔になる。

 しかしすぐに表情を崩すと、ふわりと柔らかく微笑んだ。

 ははっ、その表情は反則だよ。


「そうですね。そう言っていただけると私も嬉しいです」


 遠くでゴウンゴウンと鐘の鳴る音が聞こえる。

 王都では時間を知らせるタイミングで鐘を鳴らすと聞いたことがある。

 その音を確かめるようにスズハさんは遠くを見つめていたが、鐘が鳴り止むといつもの表情に戻ってこちらを向いた。


「そろそろ戻らないといけません。アルネさん、ミーシャさん。この二日間、私も楽しんで過ごせました。また何かあればいつでも尋ねてきてください」

「わたしも楽しかったの!」


 スズハさんは最後に軽くお辞儀をすると、雑踏に紛れて去っていった。

 さ、私たちも宿に戻ろっか。


 ◇◇


 翌朝、私とミーシャは再びギルドを訪れていた。

 今日は依頼を受けてみるつもりでいる。

 というのも、本当は早めに空き家でも購入してそこに住む予定だったのだけれど、思ったよりも残りのお金が少なくなってしまっているのだ。


 宿屋なら今日泊まる分まで支払っているし、もう二、三日追加で泊まってもいいくらいには気に入っている。

 だから、こうしてギルドで依頼を受けてみるのとともに、先にお金を稼ぐことにしたのだ。

 したのだが――。


「……お花さん。依頼、たくさんあるね」


 私とミーシャは二人揃って依頼ボードの前で立ち尽くしていた。

 そうだね、たくさんあるね。

 たくさんありすぎて、どれにすればいいのか全く分からないね。

 ……どうしよう?


「失礼っ!」


 横から誰かの手が伸びてきて、私の目の前にあった依頼用紙を取っていった。

 周りを見渡すと、昨日よりも多くの冒険者風の人がボードの前に集まってきている。

 昨日は少なかったのに……?

 なんてキョロキョロと周りばかり見ていると、見るからにガラの悪そうな男性冒険者が後ろから近寄ってきた。


「おい、そこのちっこい二人。依頼受けないんだったらどきな」


 しっしっと手で払うような仕草をする男性。

 むっ、確かに私が悪いけど、それはないでしょ。

 対抗するように私は身体ごと振り返る。


「なっ……カッパープレート!」


 首から下げたギルド証が揺れて鈍く光る。

 男性は私のプレートを見ると、後退りするように一歩下がりながら、声をあげる。


「カッパープレートだとよ」

「ということは、Cランク?」

「え、あの花の女の子が?」


 男性のあげた声で注目を集めてしまったのか、周りの冒険者たちも私に視線を向けてくる。

 ミーシャが隠れるように私の後ろ、ボードとの間に入る。

 ちょっ、そんなに集まってこないでよ!

 私が逃げ出すためにミーシャの手を掴もうとしたときだった。


「おやー? なんの騒ぎだい?」

「ギ、ギルドマスター!?」


 突如現れた巨人(ギルマス)が、男性の後ろから文字通り顔を覗かせた。

 うわっ! デカっ!

 この男性だって背は低くないのに、こうして近くで比べてみるとギルマスの巨大さが規格外だとよく分かる。


「あれ、アルネちゃんにミーシャちゃんじゃない? おはよーさん」

「……ミーシャ?」


 手をあげて挨拶してくるギルマスに、私は軽く会釈を返しておく。

 って、今なんか聞き覚えのある声がしたような?


 ギルマスから視線を下げて男性の横へ目を向ける。

 するとそこには、見知った紺色のとんがり帽子を被った女の子が立っていた。

 ああ、やっぱり!


「リルカさんなの!」

「……ひさしぶり」

「お、もしかしてきみたち知り合いなの? なるほど、そりゃあ強いわけだ」


 ギルマスが腕を組んで一人納得したように頷いている。

 確かに知り合いだけど、強さには関係ないと思うんだけど。


「おい、あれ、烈火(れっか)だぞ?」

「本当だ。あの花と獣人と知り合いか?」


 リルカの登場で周囲の冒険者たちが再びざわつき始めた。

 ガラの悪い男性は、私とギルマスとリルカを何度も見比べて口をパクパクさせている。

 ギルマスはまだ頷いてるし。

 ……なんかカオスになってきたぞ。


「……とりあえず場所を変える。ギルマス。奥の部屋を借りる」

「うん? ああ、好きに使っていいよー」

「……ありがとう。二人とも着いてきて」


 リルカは帽子の鍔を掴んで目線を隠すように少し下げると、後ろを振り返ってスタスタと歩き出した。

 私も後ろのミーシャの手を取ると、男性とギルマスの横を抜けてリルカを追いかけていった。

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