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七話 卑怯とでも何とでも言うがいい

 起きたら世界が逆さまになっていた。


 足元を見上げる。

 あー。

 寝ぼけて木の枝から落ちたらしい。

 けど、根っこは木の枝に巻き付けている。

 ゆえに今の状態か。

 凄いな、私。

 どんな寝相だよ。


 蔓を使って枝の上へと戻る。

 んんー!

 腕を上げてのびをする。

 うん。

 今日も身体は軽い。

 昨日より違和感なく動かせているのは、慣れてきた証拠かな。


 正直、少し不安もあった。

 身体が軽かったのは昨日だけで、一晩寝たら戻るんじゃないか?

 そしたら私はそのまま野垂れ死にするんじゃないか?

 そんな言い知れぬ不安を感じていた。

 結果として杞憂に終わってホッとした。


 さて、じゃあまずはこの状況をなんとかしようか。

 枝からそっと下を覗きこむ。

 ――茶色の毛のイノシシがいた。

 いや、イノシシにあんな立派な一本角は生えてないか。

 角ってかすでに凶器でしょ、あれ。

 イッカクも驚きだ。

 ちなみに、イッカクの角は角ではなく牙らしい。

 って、そんなことはどうでもいい。


 角イノシシは私を見上げて「ブモー」とか鳴いている。

 イノシシってそんな鳴き声するんだ。

 というか、鳴いたって降りないよ?

 寝ぼけて落ちそうになってたのは気にしない。


 しかし困った。

 あのまま居座られると動けない。

 試しに蔓を伸ばしてみるけど、隣の木までは届かなかった。

 うむむ……。

 仕方がない。

 またあの手でいくか。


 意識すると花びらの下から紫色の花粉が舞い始める。

 そう、ミノタウロスにも使った『毒花粉』だ。

 ここまで登ってこられないようだし、ミノタウロスより安全に倒せるはずだ。

 角イノシシの全身に毒花粉が降りかかる。

 しばらく眺めていると、頭を振ったり前足で地面を踏み鳴らしたりし始める。

 苦しいならさっさと逃げればいいのに。

 なんでそこまで執着するかな。

 ミノタウロスはまだしも、角イノシシには私何もしてないよ?


 うーん。

 あれか、モンスターの本能的な何かとか?

 私もモンスターだけど、人間としての意識が大部分を占めている。

 意識すれば花の記憶だとかモンスターの本能だとかは少しは分かる。

 けど、死ぬまで執拗に追うなんて気持ちはよく分からない。

 分かりたくもないけどね。


 のんきにモンスターについて考えていると、ドシンッという音とともに木が大きく揺れる。

 ――え、え?

 何?

 下を覗くと、角イノシシが木の幹から後ずさりするのが見える。

 かと思いきや、木の幹にタックルをかましてきた。

 ドシンッという音とともに再び木が揺れて、落ちそうになる。

 慌てて蔓を伸ばして姿勢を立て直す。


 あんにゃろう……!

 降りてこないからって、振り落としにかかってきたな!

 だが残念だったな!

 私には蔓という便利なものがある。

 この蔓を幹に巻きつけて固定していれば、落ちることはない!


 その後何回かタックルをかました角イノシシは、やがて毒がまわったのか、フラフラとよろめいてくずれ込んだ。

 ふう。

 やっと倒れた。

 けど、これで私の戦い方は決まった。

 すなわち、高いところから一方的に毒花粉をばら蒔く!

 登ってきたら蔓で叩き落とす!

 これに限る。


 え、卑怯?

 何を言っているのかな?

 勝った者が正義なのだよ?

 それに、まともな戦闘経験のない私じゃ、地上でタイマンとかした瞬間死ぬのが見えている。

 だからといって戦闘経験を積むこともできない。

 ゲームじゃあるまいし、返り討ち覚悟でレベル上げとかバカげてる。

 ここは現実。

 ゲームオーバー=死、なんだから。

 まあ、昨日みたいに突然身体が軽くなったとかあれば、話は別だけどね。


 辺りをよく確認してから地上へ降りる。

 一番気をつけなくちゃいけないのは、不意の遭遇。

 昨日で根っこによる移動はだいぶ慣れたけど、正直スピードは遅い。

 近くでばったり遭遇とかなったら、目もあてられない。

 うーん。

 あんまり気乗りしないけど、試してみるか。


 四本の蔓を全て伸ばす。

 それぞれ四方向へ地面に突き立てると、身体を持ち上げる。

 バランスが整ったら、右前の一本を持ち上げて少し前へと出す。

 続いて左後ろ。

 左前、右後ろ――。

 そのまま四本足の動物のように蔓を交互に動かして移動してみる。

 うん、ちょっと揺れるけど問題なさそう。

 問題があるとすれば、この状態だと緊急時に蔓が使えないということ。

 蔓は私の生命線ともいえる武器だから、なるべくは使わないでおきたい。

 今後の課題だね。

 あと、やっぱり恥ずかしい。

 だってこれ、神輿(みこし)に担がれてるみたいだし……。


 見た目はさておき、これで昨日より速く移動はできるはずだ。

 さて、じゃあまずは朝ごはんからかな。

 角イノシシのせいで忘れてたけど、起きてから何も食べてない。

 腹が減ってはなんとやら。

 目指すはおいしい食べ物!


 ふと角イノシシを振り返る。

 ぼたん鍋みたいな料理があるけど、角イノシシって食べられるのかな?

 そもそもモンスターって食べられるの?

 あ、グギャグギャがミノタウロス食べてたか。

 いや、だからといって食べないけどね。

 血抜きとか解体とかやり方知らないし、火も起こせないし。

 でも、いつかは食べてみたいかも。


 顔を戻して移動を始める。

 何にしても、まずはこの森を抜けることからだ。

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