六十六話 試験終了
ギルマスの胴へと打ち込んだと思った拳は、当たる寸前に空いた左手で止められてしまっていた。
でも、これで左腕は封じたし、右腕も剣を降り下ろした反動ですぐには戻せないはず。
ちょっと刺さるけど、すぐミーシャに治してもらうから我慢してよ!
自由に動く前二本の茨の蔓をギルマスに向かって伸ばしたとき、
「そこまでです」
受け付けのお姉さんの声がかかる。
ヒュッ、という風を切る音とともに、蔓がギルマスの身体の横を過ぎていった。
そして、まだ空中にいた私の身体が重力に従って床へ着地する。
「いやあ、危なかったねえ。これは当たると思ってひやひやしたよ」
あまり動揺してなさそうな顔でそう言うギルマス。
ううっ、時間切れとか悔しすぎる。
ギルマスから離れて蔓を引っ込めると同時に、背中から誰かに抱きつかれる。
まあ、ミーシャしかいないけど。
私は背中からミーシャを引き剥がすと、後ろを振り向く。
「お花さん、おつかれさまなの!」
「お疲れ様でした。いい試合でした」
うーん。
いい試合……だったのかな?
剣を抜かせるのが目標だったからか、私的にはあまり納得してないんだよね。
「登録試験の段階でギルドマスター相手にあそこまで立ち回れたのなら十分でしょう」
不満が顔に出ていたのか、スズハさんは慰めるように付け足してくれる。
さらにスズハさんは「それに……」と口ごもりながら私の斜め後ろに目線を向ける。
私も振り返ると、見学していた冒険者たちが、口をポカンとあけていた。
「す、すげえ……」
「なんだ今の試合」
「あの嬢ちゃん何者だよ?」
あー、うん。
スズハさんの言いたいことは何となく分かった。
これ以上目立つのはよくなさそうだね。
私は冒険者たちからそっと視線を外す。
ところで、評価はどうなんだろう?
私はミーシャからアイテムバッグを返してもらうと、黒板を取り出して再度ギルマスへと振り返る。
『評価』
練習用の剣を壁に戻していたギルマスは、黒板に気がつくと戻ってくる。
「評価? まあ、Cランクだね。理由も話したほうがいいかい?」
ギルマスの言葉に私は首を横に振る。
妥当なランクだと思うよ。
むしろDランクと言われなかったのが驚きだ。
ざわつく冒険者たちを無視するように、受け付けのお姉さんが前に出てくる。
「これにて進級試験は終了とします。ギルマスは戻っていただいて大丈夫です」
「はい、お疲れさん。嬢ちゃんたちも、また挑戦しにおいで」
「うん!」
ミーシャの元気な返事に、ギルマスはひらひらと後ろ手を振りながら出ていった。
最後まで掴みどころのない人だったね。
「それでは、ギルド証を発行しますので、受け付けまで戻りましょう」
◇◇
受け付けに戻った私たちは、お姉さんに言われたとおり、待ち合い椅子に座って休んでいた。
窓から外を眺めると、わずかに赤みがさした空が見える。
思ったよりも時間が経っていたんだね。
「ミーシャ様、アルネ様、お待たせいたしました。受け付けまでお越しください」
私たちは椅子から立ち上がって呼ばれた受け付けまで移動する。
受け付けのカウンターには二つのネックレスが置かれていた。
一つは青みがかった金属、もう一つは銅のプレートが先端についている。
「こちらがミーシャ様の青銅プレート、そしてこちらがアルネ様のカッパープレートとなります。ギルドへお越しになられる際には、できるだけ首から下げておいてください」
私は差し出された銅のプレートを受けとる。
表面には大きく『C』と彫られており、裏面にはアルネという名前が刻まれていた。
ミーシャのプレートを覗くと、同じく表面に大きく『E』と彫られていた。
「ギルド証を紛失された場合は、すぐにギルドまでご連絡ください。なお、再発行には銀貨十枚が必要となります」
え、高っ!
……って、要はなくすなってことか。
「依頼の受け方を説明いたします。依頼には常設の依頼、募集依頼、指名依頼の三種類があります。常設の依頼と募集依頼は左手のボードに貼り出されておりますので、後ほどご確認ください。依頼を受ける際は、依頼書をボードから剥がして受け付けまでお持ちください。常設依頼に関しては、受け付けで依頼名を言っていただくだけでも構いません」
おお。
ボードから剥がして持っていくとか、漫画みたいだね。
それと、常設の依頼っていうのが少し気になる。
まあ、薬草集めとかゴブリン退治とか、あまり人気のなさそうな依頼なんだろうけど。
「続いて指名依頼ですが、こちらは依頼者が冒険者の方を指名して行う依頼となります。依頼を受けるかどうかは冒険者の方が決めることができます……が、ほとんどの方は受けられます」
「……? なんでなの?」
「指名依頼は報酬が多額であることが多いことがまず一点。そしてもう一点が、依頼者が貴族であることが多いためです。貴族の依頼を断る方は、あまりおりませんので」
貴族かー。
正直、あまり関わり合いにはなりたくないね。
小説や漫画とかの勝手なイメージだけど、私利私欲のために権力をふるう、横暴なイメージしかない。
ま、指名依頼は気にしなくても問題はなさそうだね。




