六十四話 ギルドマスター
「分かりました。失礼しました」
静まりかえった空気の中、スズハさんはそう言って剣にかけていた手を離す。
ふう。
巨人……もといギルドマスターが現れてくれたおかげで、大事にならずに済んだみたいだ。
下手に騒ぎなって魔物だとバレたら、洒落にならないからね。
「……いや、俺たちも冷やかしすぎた」
「わりいな、嬢ちゃんたち」
目線はそらしながらも素直に謝ってくる冒険者たち。
もしかして、意外と真面目?
「いやあ、平和的に解決したようで、おっちゃん嬉しいよ」
ギルドマスターが頭をかきながら、ヘラヘラと笑う。
えっと、ギルドマスターってギルドで一番偉い人だよね。
学校でいうと校長、会社でいうと社長だよね。
確かに体格にはびっくりしたけど、このへらへらしたのが本当に冒険者ギルドのマスター?
巨人、もといギルドマスターを見ていると、その陰からさきほどの受け付けのお姉さんがひょこっと現れる。
……いたんだ。
ギルドマスターのインパクトと大きさで気づかなかった。
お姉さんは数歩ほど前に出ると、軽く咳払いをして話し始める。
「揃っていますね。では、これより進級試験を始めます」
あ、このお姉さん、今の騒ぎをなかったことにして進めるつもりだ。
まあ、私としても賛成だから、つっこみはしないけど。
「お二人のどちらが先に受けられますか?」
「はい、やってみたいの!」
「では、ミーシャ様の進級試験を先に行わせていただきます。ミーシャ様は魔法の実技試験でよろしかったですか?」
「うん。戦わないやつで」
「ではこちらへ」
お姉さんに案内されて前へ出ていくミーシャ。
ミーシャが練習場の中央へ立つと、お姉さんは下がり、代わりにギルドマスターが出てくる。
って、ギルドマスターが試験官やるんだ。
「獣人の嬢ちゃんは、どんな魔法を使うんだい?」
「えっと、回復魔法なの」
ミーシャがそう言うと、周りの冒険者たちがざわつき始める。
え、何かまずいこと言った?
もしかして、回復魔法って禁術的な魔法なの?
「回復魔法かい。それはまた珍しい魔法を……。まあいいや、じや、俺の腕にかけてくれるかい?」
「分かったの」
よかった、ただ珍しいだけか。
今まで魔法のレア度とか意識したことなかったけど、今後は少し気にしたほうがいいかな。
ミーシャは頷くと、出されたギルドマスターの腕に手を添えて回復魔法を使い始める。
ミーシャの両手から淡い白色の光が溢れ、腕を覆っていく。
特に怪我をしているようには見えないけど、あれで魔法の熟練度とか分かるのかな?
そのまましばらく魔法をかけ続けた後、「もう大丈夫だよ」というギルドマスターの声でミーシャは手を離す。
「いやあ、凄いねー。その若さで、しかも回復魔法を、このレベルで使えるなんて。嬢ちゃん、うちの専門医にならない?」
「ギルマス。勧誘は後回しにして、評価をお願いします」
「もう、大人しい顔して、相変わらずせっかちだねえ。じゃあ、Eランクで」
……今「じゃあ」って言ったよね、このおっさん。
確かに魔法の実技試験なんて基準が難しいとは思うけど、そんな適当に決めるの?
私がギルドマスターを睨むと、それに気づいたのか慌てて身体の前で両手を振る。
「いやいや、ちゃんと説明するからそんな睨まないでよ。ええっと、使用魔法の難易度はもちろん、魔力の生成速度もかなり高いね。でも、魔力の量と持続時間はまだまだ未熟。他にも細かい点はいくつかあるけど、総合してEランク。納得してくれたかい?」
……意外と細かく見ていたことにびっくりした。
まあでも、適当に決めたことじゃないなら、私もとやかく言うつもりはない。
というか、疑ってごめんなさい。
私が頷くとギルドマスターは安心したかのようにふうと息をついた。
「では、ミーシャ様をEランクへ進級とさせていただきます」
「お花さん、やったの!」
戻ってきたミーシャがそのまま飛び込んでくる。
私は受けとめると、抱きつくミーシャの頭を撫でてあげる。
うん、ギルドマスターも誉めてたし、凄いね。
「続いて、アルネ様の進級試験を行わせていただきます。試験方法はどうされますか?」
私はミーシャを離すと、アイテムバッグから黒板を取り出す。
『模擬戦闘』
そう書いて見せると、お姉さんは少し驚いた顔を浮かべる。
私も見た目だけならミーシャと同じか少し歳上くらいだからね。
まあ、私も自分が戦闘を選ぶなんて驚きだけど。
森をさまよっていた頃は、できるだけ戦闘を避けてたからね。
あのときとは状況が違うとはいえ、私も変わったものだ。
「お花さん、頑張って!」
「頑張ってください」
ミーシャとスズハさんに応援されながら、私は練習場の中央へ移動する。
そこに立ったままのギルドマスターを見上げる。
うわー、改めて近くで見るとかなり高いね。
私の背が低めというのもあるけど、私からしたらまるで筋肉の壁だよ。
これ、ミノタウロスといい勝負なんじゃないかな。
……いや、魔物と比べること自体おかしいのか。
「花の嬢ちゃん、武器や防具はどうしたんだい?」
私は首を横に振る。
そんなもの必要ないよ。
私にはとっておきの蔓があるからね!




