五十八話 思いがけない再会
「て、敵襲ーっ!」
「なんだ! 魔物か!?」
鳴り響くベルの音と、誰かがあげた声に、集まってくる兵士たち。
すぐに前方と左右の三方を取り囲まれてしまう。
私はミーシャを守るように、繋いだ左手を引いて後ろに隠す。
兵士たちは私たちを見ると、不思議なものでも見たかのように首を傾げる。
「子ども? しかも、女の子じゃないか」
「おいおい、驚かせるなよ。ベルの故障かよ」
「いや、でも、あの子……なんか魔物っぽくないっすか?」
集まった兵士は五人。
全員がさっきの門番と同じ格好をしているが、手にしているのは槍ではなく盾と剣だ。
その中でも一番若そうな青年が、私を指差して核心を突いてくる。
「それに、このベルって、魔物の魔力に反応するんじゃなかったっすか?」
「言われてみれば、確かに、な」
言われてようやく思い出したかのように、周りの兵士も私を見る目が厳しくなる。
剣や盾を握る手に力が入るのが分かる。
う、余計なことを……!
「そこの花の髪飾りをつけたお嬢ちゃん。街に入る前に、魔力反応のチェックを受けてもらおうか。おい、アレス。魔力水晶を持ってこい」
「りょ、了解っす!」
アレスと呼ばれた青年が、外へと走っていく。
四人程度なら逃げられるとは思うけど……そんなことをしたら二度と王都には入れなくなるよね。
だからと言って、その魔力反応のチェックとやらを受けたら、多分魔物だってことがバレそうだし。
うわっ、もしかしてこの状況、かなりやばい?
「悪いが、お嬢ちゃん、このまま少し待っててもらうぜ」
指示を出していたアゴ髭の男性が、笑いかけるように話しかけてくる。
黒板はさっきアイテムバッグに戻しちゃったし、答えようにも答えられないけど。
アイテムバッグに手を入れたら……ダメだよね。
仕方がないので、とりあえず頷いておくだけにする。
うーん、アレスっていう青年が戻ってくるまでになんとかしないと……。
または、その魔力水晶っていうのが壊れているのに期待するか。
いっそチェックするときにこっそり壊しちゃう?
いや、逆に怪しまれるだけか。
あれこれ考えている間にも時間は経ち、ガラスのような透明な板を持ったアレスくんが奥の出入口から再び現れる。
「も、持ってきたっすが……」
――って、何か歯切れが悪い?
同じことを思ったのか、アゴ髭の兵士も首を巡らせ後ろを確認する。
アレスくんの後ろから、黒髪の女性が顔を覗かせる。
「そこで慌てて魔力水晶を持っていく彼を見かけたのですが、何の騒ぎですか?」
……ス、スズハさん!?
なんと、現れたのは、ミーシャの村で一緒に戦った、王都近衛騎士団のスズハさんだった。
白銀の鎧ではなく、村にいたときのような赤と黒のシャツにスカートといったラフな格好をしている。
スズハさんは私たちに気づいたのか、驚いたように目を見開いた。
「あなたは、あの時の……。それにミーシャちゃんも?」
「スズハさん?」
スズハさんの声に気づいたのか、今まで私の後ろに隠れていたミーシャが、おそるおそる顔を出す。
途端にパッと笑顔になると、スズハのところへ駆け出そうとする。
ちょっ、ちょっとストップ!
慌ててミーシャを止める。
まだ周りの兵士の警戒がとけてないから、危ないよ!
「もしかして、三番隊長のスズハさんですかい?」
「……ええ。団員証もこちらに」
スズハさんは胸元に手を入れると、首にかけた銀の鎖とメダルを引っ張り出して見せてくれる。
周りの兵士たちの息を飲む音が聞こえる。
というか、隊長って何?
「それよりも、これは一体どういう状況ですか?」
「あ、ああ、そこの嬢……彼女が魔力検問に引っ掛かったんだ……です。なんで、アレスに魔力水晶を取りにいかせたってわけです」
「なるほど……」
スズハさんが白い目で私を見てくる。
そして、はあとため息をついた。
……えっと、なんか、ごめんなさい。
「彼女は私の知り合いですので、危険はないですよ。魔力の性質が魔物に近い種族なので、探知機が反応したのでしょう」
「魔物に近い種族、ですかい?」
「ええ」
「……分かりました。おい、全員撤収だ。アレスも、それ戻してこい」
口々に「了解」と言いながら戻っていく兵士たち。
アレスくんも「またっすかー!」と言いながら再び外へ出ていった。
た、助かったー!
気が緩んだのか、ミーシャを掴んでいた手が弱まり、ミーシャがスズハさんのもとへ走っていく。
「スズハさん、お久しぶりなの!」
「はい、お久しぶりです」
ミーシャとスズハさんが挨拶をする。
助けられたという気持ちも込めて、私も頭を下げる。
「再会を喜びたいのですが……。他の者の邪魔になってしまいますので、ひとまず移動しましょうか」
そう言うと、スズハさんは回れ右をして奥の出口へと歩いていく。
うん、そうだね。
それに、さっきから兵士たちがチラチラと私たちを見ているのが、どうもに気になる。
私はミーシャの手を取ると、スズハさんを追いかけて検問所を後にした。
あ、もちろん、通行税はカウンターに置いていったよ。




