五十五話 いつから生麺だと錯覚していた?
ノウクス村に着いた翌日。
朝早くからミーシャに起こされた私は、ベッドの誘惑を振り切って大きく伸びをする。
今日の私には、麺類を探し出すという重大な目的がある。
気合い入れていくよ!
「……いい。出たくない」
と思ったら、さっそく出鼻を挫かれた。
食堂へ向かう前、隣の部屋のリルカにドア越しに声をかけてみたところ、断られてしまったのだ。
思わず、引きこもりか! って心の中でつっこみを入れてしまった。
まあ、人が多いのは苦手なようだし、仕方がないかな。
一階にある居酒屋兼食堂へ行くと、すでに朝食を終え、かばんを覗いてごそごそとやっている行商人のおじさんがいた。
おじさんは私たちに気付くと、好悪が入り混じったような微妙な表情をする。
「あんたたちか」
「おじさん、おはようなの」
「ああ、おはよう。……そういえば名乗っていなかったな。俺はルットマンだ。まだそこまで歳はくってないから、おじさん呼びはやめてくれ」
「そうなの? 分かったの、ルットマンさん」
え、そうなんだ。
てっきり四十代だと思ってたから、少し驚きだ。
ミーシャの返しに、行商人のおじさん、もといルットマンさんは少しだけ表情を和らげる。
「俺は仕入れがあるから、もう行くぞ。あんたたちは今日はどうするんだ?」
ルットマンさんはかばんを閉じて席を立つと、私たちにそう尋ねてくる。
あ、ちょうどいい。
行商人なら、食べ物についても詳しいかも。
私はアイテムバッグから黒板を取り出すと、ルットマンさんに見せる。
黒板には前もって『ウィード 麺料理 知ってる?』と書いておいてある。
「ウィードの麺料理? そんなもの、その辺に行けばいくらでも売っているぞ?」
お、おお!
まさかのルットマンさんから情報ゲット!
というか、ルットマンの言い方からすると、結構メジャーっぽいね。
「そうだな……。この宿屋から西に行けば、冒険者や行商向けの露店が並んでいる。そのどこかには売っているはずだ」
西って、昨日のパン屋がある方向じゃん。
昨日はパンと果汁ジュースだけ買って早々に退散したから、他の露店はしっかりと見ていなかった。
まあ、昼時も過ぎていたし、露店がやっていたとは限らない。
今日なら余裕を持っていけるし、よかったとしよう。
私がお礼に頭を下げると、ルットマンさんは「じゃあな」と後ろ手を振って出ていった。
「お花さん、探しものは見つかったの?」
ミーシャが尋ねてくるので、頷いておく。
私が頷くと、ミーシャは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「その『めん』っていうのはよく分からないけど、よかったね!」
ん?
もしかしてミーシャ、麺料理を食べたことない?
……それはもったいない。
これは、ぜひともミーシャにも食べさせないと!
私とミーシャは朝食を済ませ、まだ早いのでお茶で一服しながら時間を潰す。
しばらくすると食堂に人が集まってきたので、露店のある通りへと向かった。
少し歩いて露店が並ぶ通りまで来ると、ちょうどいい時間らしく、昨日より露店の数も人の数も多い。
私ははぐれないようにミーシャの手を繋ぎ、通りを進む。
ミーシャは楽しそうにキョロキョロと見渡しながら、珍しそうなものがあると立ち止まって覗いている。
それにしても、さっきから周りの視線が痛いね。
獣人のミーシャも珍しいのだろうけど、主に私が見られている気がする。
たまに「花?」と聞こえるから、自意識過剰というわけでもないと思う。
森を抜けてすぐにあった村――確かヘッセ村という名前だったか――は人が少なくて見られることはほとんどなかった。
獣人の村は言わずもがな。
ここまで注目されるのは久しぶりだから、目線が気になって仕方がないね。
まあ、考えてもどうしようもないし、無視することにしよう。
さらに歩くと、ようやく目的の露店を発見した。
机の上のざるには、乾燥して固くなった麺が並べられている。
おー、乾麺だよ、乾麺!
ただ、この細さ、うどんというよりそうめんだね。
まあでも、麺は麺だ!
「らっしゃいっ! お、嬢ちゃんたち、ウィード麺に興味あるのか?」
頭に手拭いを巻いたマッチョのおじさんが、歯をキラリと見せながら笑う。
うん、興味ある! というか、探していたものだよ!
私が頷くと、ミーシャも真似して頷く。
「そうかそうか、嬉しいぞ! なんなら、少し食べてみるか?」
――え、いいの!?
私は反射的に首を縦に振る。
「よし、ちょっと待ってな!」
そう言うと、おじさんはざるから麺を半束ほどだけ取り……真っ二つに折った。
……は?
え、何してるの?
折ったらくずになっちゃうよ?
私が混乱するなか、おじさんはさらに麺を折り、砕く。
そして用意してあったフライパンに砕いた麺を入れ、空煎りしていく。
煎られた麺が茶色くなってきたら、近くにあった壺から二、三つまみ粉をふりかけると、木の皿に乗せて渡してきた。
「お待ちっ! ノウクス村名物、ウィード焼きだ!」
なんということでしょう。
ツルツルのそうめんを食べられると思っていたら、パリパリの焼き麺が出てきたではありませんか。
――というかこれ、ベビー〇ターラー〇ンじゃん!




