五十三話 ノウクス村到着
私はリルカに『初級魔法大全』の書かれた本を返す。
ところで、今の本が初級ということは、中級魔法大全とか上級魔法大全とかもあるのかな?
もしあるなら、どんな魔法があるのか一度は読んでみたいかも。
と思ってリルカに尋ねたが、「ない」と即答された。
残念……。
「……そういえば。その子も魔法が使えるのは本当? もしかして同じ人から教わっている?」
リルカはそう言って私のひざに頭を預けて寝ているミーシャに目を向ける。
あ、そっか。
行商人のおじさんに頼まれて馬の怪我を治したときは、リルカはその場にいなかった。
話は聞いているだろうけど、ミーシャが魔法を使ったところは直接見ていないんだね。
隠すようなことでもないし、私は頷く。
「……凄い。回復魔法は相当のセンスが必要な魔法」
へえー。
エリューさんもミーシャは魔法使いの素質があるって言ってたけど、本当だったんだね。
ってことは、将来は魔法使いの冒険者とかになるのかな?
私としては、ミーシャにはあまり危険なことはしてほしくないんだけどね。
なんて思いつつミーシャの耳にかかった髪をそっとかきあげると、ミーシャは「ううん」と軽く寝言をあげた。
「それにしても……エリュー。やっぱり聞いたことない。その人も獣人?」
私は首を横に振る。
ただの人とは思えないけど、少なくとも獣人ではない。
それは本人も言っていた――まあ、エリューさんの言葉のどこまで信じていいかは別だけど。
それを見たリルカは何かを考えるかのように、とんがり帽子のつばを押さえる。
『気になるの?』
私はそう書いた黒板をリルカへと向ける。
さっきからやけに魔法を教えた人にこだわっているように感じる。
リルカは顔をあげると静かに頷いた。
「……ボクが冒険者になった理由。十年前まで王都にいたAランクの冒険者エルニア。でも今はどこかへ姿を消してしまった」
なるほどね。
その冒険者に憧れてリルカも冒険者になって、行方を探してるってわけか。
なんか健気でかわいいね。
というか、さすが王都、Aランク冒険者なんているんだね。
これは、ますます魔物だとバレるわけにはいかなくなってきた。
その後、リルカと魔法の話をしながら過ごしていると、御者台に座っていた行商人のおじさんが声をあげた。
「村が見えたぞ」
私は前方へ顔を向けると、平原を横切るように伸びた川と、その向こうに風車や畑などが見えた。
柵はないけど、川が柵代わりになっているのかな?
のどかそうな村だ。
おじさんの声か、私が身体を動かしたからか、ミーシャがふわあと欠伸をしながら頭をあげた。
「お花さん、着いたの?」
ミーシャが目を擦りながら聞いてくる。
私は頷くと、進行方向を指差した。
ちょうど私を挟んで反対側にいたミーシャは、立ち上がって私の頭を乗りこえるように村を覗く。
ちょっ、危ないから座ろうね。
「わあ、村だ。村だよ、お花さん! どんな村なのかな!」
「……あれはノウクス村。農業が盛んでウィードの名産地」
はしゃぐミーシャをなんとか座らせると、リルカが村について説明してくれる。
……ウィード?
農業ってことは、野菜とかの食べ物かな?
「詳しいな、冒険者。そうだ、あの村のウィードは王都でも値が高くつく。しばらく仕入れを行うから、二日ほど滞在するぞ」
「やった! お花さん、一緒に見てまわるの!」
はいはい。
分かったから、暴れないの。
「出発は明後日の明朝だ。遅れたら置いていくぞ?」
「分かったの!」
「……分かった」
元気よく手をあげて返事をするミーシャ。
対してリルカは目線を隠すようにとんがり帽子を深く被って小さく返事をする。
……うん?
◇◇
村に着くと、畑で作業していた人の案内に従い、真っ先に宿屋へ向かう。
まだ日は高いが、いい部屋から順番に埋まっていくから、先に宿を取るのは常識らしい。
旅人が使うような普通の宿屋へ来ると、行商人のおじさん、リルカ、私とミーシャでそれぞれ三部屋取る。
リルカと同じ部屋でもいいかなと思ったけど、どうやらこの宿屋には一部屋にベッドが二つしかないらしい。
村から出るまでは私とミーシャで同じベッドを使っていたし、部屋を共有したほうが宿代は浮くと伝えたら、
「一人のほうが落ち着く」
とやんわりと断られてしまった。
「また二日後の明朝にこの宿の前に集合だ。しつこいようだが、遅れたら置いていくからな」
行商人のおじさんはそれだけ言い残すと、かばんを持って早々に出ていってしまう。
かばんはアイテムバッグになっているらしく、馬車からおろした品物を分けて入れていたのを見た。
きっと仕入れとかで忙しいんだろう。
私は旅するならもっとのんびりしたいし、行商は向いてないね。
じゃあとリルカを誘おうとするが、こっちもそそくさと部屋へ向かっているところだった。
うーん?
人が多いところは苦手なのかな?
「お花さん。まだ時間があるし、一緒に探検しよう!」
そう言うと、私の右手を握って歩き出すミーシャ。
私も握り返すと、ミーシャに引っ張られて宿屋を出た。




