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五十二話 魔法少女リルカ

 ガタガタと広い平原にできた砂利道を馬車が進む。

 狼たちが襲ってきて以来、別の魔物が現れることもなく、平和な時間が流れている。

 ミーシャは私のひざを枕にして寝てしまっている。

 結構揺れていると思うんだけど、よく寝られるね。


 暇をもて余した私は、正面に座っている冒険者の少女、リルカを見る。

 見た目からすると十代半ばくらいだろうか。

 紺色のローブを身に纏い、女の子座りで荷車の縁に背中を預けている。

 とんがり帽子を目深く被っているため、表情は窺い知れない。

 というか、寝ている気がする。


 しばらくリルカを見ていると、突然頭を起こして辺りをキョロキョロと見渡し始める。

 その動きにあわせて金髪のおさげが肩で揺れる。

 最後に私の視線に気づいたのか、私の方を見たままフリーズした。


「……寝てないから」


 ……いや、何も言ってないよ。

 そもそも喋れないし。


 そのまま私の顔をジッと見てくるリルカ。

 ……えっと、恥ずかしいんだけど、何かな?

 とりあえず首を傾げてみる。


「……相変わらず凄い魔力量。まるで魔物みたい」


 リルカは感心するように頷く。

 私は内心焦るが、なんとか平静を装う。

 声が出てたら絶対に「えっ!?」とか言ってたね。


 私は目を閉じて、身体の中に意識を向けてみる。

 以前はぼやっとしか感じられなかった魔素や魔力が、今でははっきりと分かる。

 そして同時に、身体中から少しずつ漏れ出している魔力にも気付いた。


 うわあ……。

 これはないわ。

 例えるなら、リュックのジッパーを閉め忘れて町中を歩いていたときと似ている。

 あの時も恥ずかしかったけど、今も大概だ。


 えっと、これどうすればいいんだろう?

 どうやら無意識のうちに魔力を練っているらしく、止め方が分からない。

 とりあえず、意識して魔力の精製を止めてみる。


「あ……減った」


 止め方はこれで問題なさそうだ。

 今は意識して止めているけど、そのうち慣れてくるかな?


 それにしても、王都に行く前に気付いてよかった。

 王都であんな魔力纏っていたら、絶対すぐ魔物だとバレてたよ。

 危ない危ない。

 私は心の中で汗を拭う。


「……不思議な人。あなたの魔法も不思議。見たことがない」


 グラスウルフのときに見られてたのか。

 やっぱりだいぶ余裕あったよね?


 それはともかく、そもそも魔法なんてイメージ次第なんだから、見たことがないのは当たり前だと思う。

 なんて思っていると、またもやリルカが爆弾を投下する。


「水の中級魔法? だけど中級の水魔法にあんなのはないはず」


 ……えっと、中級の魔法?

 この子は何を言っているの?

 私は思わず首を傾げる。


「……もしかして知らない? そんなに凄い魔法が使えるのに?」


 だから、説明をプリーズ。

 私が首を傾げたままなので察したのか、リルカはポツポツと説明を始める。


「……魔法はイメージ。イメージすれば大抵の魔法は使える。これは知っている?」


 うん。

 同じ説明をエリューさんから聞いたことがある。

 魔素を集めて、魔力に変換し、イメージを固めて魔法を使う、という話だ。


「……でも魔法にも得意不得意はある。ボクは火の魔法が得意。反対に水の魔法が苦手。水はイメージが固まらない」


 あー。

 なんとなくリルカの言いたいことは分かる。

 要は、人によってイメージしやすいものが違う、っていうことだね。

 それは分かったけど、中級魔法って何?


「……だから魔法の中でも基本的なものが初級魔法。あなたの魔法はどう見ても中級以上だった」


 うーん?

 初級とか中級とか、イメージ次第なんだから関係なくない?

 誰かが決めているわけでもないだろうし。


 再度首を傾げていると、リルカが自分のアイテムバッグから一冊の本を取り出して渡してくる。

 私はその本を受け取ると、タイトルに目を通す。

 えっと、『初級魔法大全』……?

 ナニコレ?


 中をパラパラと捲ってみる。

 指先に火を灯す魔法、小さな火の玉を作る魔法、火の玉を飛ばす魔法。

 さらに捲ると、ジョウロのように水をチョロチョロと出す魔法、そよ風をふかせる魔法。

 その他色々、用途のよく分からない魔法から実用的な魔法まで、大量に載っている。

 ナニコレ?


「……駆け出しの魔法使いが勉強する本。見たことない?」


 うん、ない。

 エリューさんから一度説明を受けただけで、あとはひたすら実際に魔法を使っていただけだ。

 始めの水魔法以外、教えてもらったことはない。

 ミーシャも回復魔法以外使っているのを見たことがない。

 もしかして、エリューさん、結構適当に教えていた?

 私がエリューさんを疑うと、リルカは全く反対のことを言う。


「ならあなたに魔法を教えた人はとても優秀。あなたと水の魔法は相性がいい。それを見抜いて魔法を教えていると思う」


 エリューさんが?

 いや、確かにミノタウロスを一撃で瀕死にしていたし、優秀な魔法使いだとは思う。

 けど、面倒くさがって教えなかったと思ってしまうのは、なんでだろう。


「……あなたに魔法を教えた人はなんていう名前?」


 私は肩から下げたアイテムバッグから黒板とチョークを取り出す。

 そして『エリューさん』と書いてリルカへ見せる。


「……残念。知らない人」


 リルカは残念そうに肩を落とした。

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