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五十一話 VSグラスウルフ

『私が前を倒す』


 そう書いた黒板を行商人のおじさんに見せると、私は馬車から飛び降り、前方へ目を向ける。

 まだ遠くてはっきりとは見えないけど、あれって狼の魔物?

 黒と灰色が混じったような色の狼たちが、一糸乱れぬ動きで迫ってきている。


 七体……いや、八体かな。

 見た目はともかく、漏れ出している魔力からは、それほど強そうには感じられない。

 せいぜいヘビ程度だ。

 それじゃ、襲われる前に倒しちゃいますか。


 私は蔓を伸ばして臨戦体勢に入る。

 っと、その前に、まだ馬車に乗ったままの冒険者の女の子に黒板を見せる。

 この子がどれだけ強いかは分からないけど、冒険者なんてやっているんだし、この程度の魔物は倒せるはずだ。

 倒せないにしても、足止めしてくれればそれでいい。


「……分かった。後ろは任せて」


 冒険者の女の子は頷くと、紺色のローブを翻して馬車の反対側へと飛び降りた。

 うーん、大丈夫かな?

 正直、ちょっと心配だ。

 まあ、気にしても仕方がないし、さっさと倒して応援に行こう。

 私は気を引き締め直して前を見つめる。


 まずは様子見、両手を伸ばしてウォーターレインを準備する。

 発動までにまだ時間はかかるけど、相手との距離があるこういう場面なら、使い勝手はいい。


 狼たちも私を標的と定めたのか、唸るように吠えると、四体ずつの二手に分かれる。

 四体はそのまま真っ直ぐ、もう四体は横から回り込むように向かってくる。

 私は近い方、真っ直ぐに向かってくる四体に向けて、ウォーターレインを撃ち出す!


 水の弾は、狼たちに吸い込まれるように飛んでいくと、次々と貫いていく。

 狼たちも避けようと左右や上へジャンプするが、別の弾に当たって地面へ落ちる。

 そこへ水弾の雨が降り注いでいく。


 以前ウォーターボールに操作性を持たせたのと同じように、ウォーターレインにも一工夫加えてある。

 といっても、百発近くある水の弾を全て操作することなんてできない。

 だから、あらかじめ狙いを付けた標的を、ある程度追尾するようにしてみた。

 ウォーターボールのように極端に曲がったりはしないけど、敵が複数いる状況で使う魔法だし、問題はない。


 前方の四体が動かなくなったのを確認すると、すぐさま横へ向き直る。

 回り込んできた四体のうち、先頭を走っていた一体が鋭い牙を覗かせて飛び掛かろうとジャンプしたところだった。

 いつも思うけど、真正面からジャンプして襲いかかるって、隙だらけになる悪手だよね。

 私は伸ばした棘の蔓を薙いで、飛び上がった狼を弾き落とす。

 思いきり地面に衝突した狼に棘の蔓を突き刺してとどめをさす。


 先頭が倒されたためか、怯んで動きを止めた残りの三体に向けて花の蔓を伸ばすと、毒花粉を噴射する。

 もちろん風向きは考慮して使っている。

 後ろのミーシャたちに飛んでいったら大変だからね。


 狼たちは毒花粉を避けるようにバックステップで距離をとる。

 でも、残念。

 私は始めの四体を倒した後にすぐ用意していたウォーターレインを、残りの三体へと撃ち込む。

 先ほど同様に、百発近くの水の弾が狼たちを貫いていく。

 最後の一体が動かなくなるのを確認すると、蔓を引っ込めて馬車へと戻る。


「お、お前……一体何なんだ?」

「お花さん、凄いの! あっという間に倒しちゃったの!」


 驚いたように口が開いた行商人のおじさんと、荷車から身を乗り出すようにはしゃぐミーシャ。

 ミーシャ、落ちないでよ?

 対極の二人はさておき、私は馬車の後ろを迂回して反対側の様子を見る。

 危ないようだったら助けに入らないと、なんて思っていたけど、そんな考えは杞憂に終わる。


 三十センチほどの黒い杖を手にした冒険者の少女の前方には、焼け焦げた狼が転がっていた。

 また、一面緑の草原にも、黒い染みのように焦げた跡がいくつも広がっている。

 あの子の魔法かな?

 冒険者の少女はふうと軽く息を吐き、こちらを振り返る。

 すぐに私に気付いたようで、澄んだ金色の目で真っ直ぐに見つめてくる。

 そしてボソッと一言。


「……負けた」


 ……うん?

 え、勝ってるよね?

 どう見ても燃え尽きた狼の死体しか残っていない。

 何体か逃げられたのかなと思って草原を見渡してみるけど、どこにもいない。

 私は思わず首を傾げてしまう。


「……あなたが先。ボクが後」


 私と自身を順に指差す冒険者の少女。

 ああ、そういうこと。

 つまりこの子は、私よりも倒すのが遅かったから、私に負けたと言いたいわけだ。

 ――って、分かりにくいわ!


「そっちも無事に倒したようだな。助かった、礼を言う」

「……問題ない。そういう依頼」

「それもそうか。そっちの……あー、花の嬢ちゃんもありがとうな」


 馬車から降りたおじさんがお礼を言ってくる。

 ミーシャを危険な目にあわせる訳にはいかないし、相手も弱かったから、お礼を言われるようなことじゃない。

 私は軽く頷いておく。


 私の横まで歩いてきた冒険者の少女が、握手を求めるように私に手を伸ばす。


「……ボクからもお礼を言いたい。ありがとう」


 私は差し出された手を握り返す。

 正直、この子だけでも切り抜けられたような気もするから、大したことはしてないと思う。


「……そういえば自己紹介がまだだった。ボクはリルカ。しばらくよろしく」

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