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四十五話 追われるより追いたい年頃

 村長の家の外へ出た私たちを待ち構えていたのは十数を超える数の魔物だった。

 そのほとんどがヘビや角イノシシだけど、中にはミノタウロスや巨大クモ――確かパラズ何とかという名前だったはず――のような強い魔物も数体いる。


 魔物の群れを中心に辺りを見渡してみるが、テアさんの姿は見当たらない。

 近くにはいないのか、姿を隠しているのか。

 まあ、こんな人が大勢いるところに堂々と出てくるわけないよね。


 それはいいとして、この数は正直やばい。

 弱い魔物はおいておくとして、問題はあのミノタウロス二体と巨大クモだ。

 私じゃミノタウロス一体が限度というの分かっているし、処理しきれない。


 その時、隣に立っていたジルドが前を向いたまま話しかけてきた。


「おい、花。こんなことを頼むのは不本意だが、俺ではパラズ・タラスを止めるのが限度だ。――ミノタウロスを頼む」


 ジルドの顔は前を向いたままだけど、横目で私の返事を確認しているみたいだ。

 ……ははっ。

 私がミーシャやキャティさん、この村の人たちを見捨てるわけないでしょ?


 私が頷くと、ジルドは「すまない」と小さく言って目線を戻した。

 うん、そういうしおらしいセリフは似合わないよ。


 会話が終わるのを待っていてくれたのか、はたまた準備を整えていただけか。

 今まで動かずに見ているだけだった魔物たちが一斉にこちらに向かって移動し始めた。


「俺らが大きいのを引き付ける! 周りの魔物は任せた! 一匹たりともここを通すな!」

「うぉーー!」


 ジルドの声に答えるように大声を上げてヘビや角イノシシに向かっていく兵たち。

 私も蔓を伸ばすと向かってくるミノタウロス二体に視線を向ける。

 よし、やるしかないか!


 二体のうち一体が先行し私に向かって腕を振りかぶる。

 私がそれをガードするために蔓を身体の前に伸ばしたと同時に、横からスズハさんが飛び出してきた。

 スズハさんは私とミノタウロスの間に割り込むと、ミノタウロスの腕を剣の腹で受け止めた。


 ――ちょっ、ええ!?

 何やってるの、スズハさん!?


「ミノタウロスは私が引き受けます。あなたはテアを探してください」


 え、何で私が探す側?

 私にミノタウロスを任せて、スズハさんがテアさんを探せばいいんじゃないの?

 いや、ミノタウロス二体とか正直無茶だけどさ!


「早く行ってください。テアの目的があなたなら、あなたが一人でいるときに出てくるはずです」


 あ、そういうことか。

 私がジルドを見ると、同意するように首を縦に振っている。

 おっけー!

 サクッと見つけて、捕まえてくるよ!


 私は頷くと蔓を伸ばして村長の家の屋根までのぼる。

 村長の家はこの村では珍しい二階建てだから、遠くまで見渡すことができる。

 そんな期待を込めたけど……うん、やっぱり見当たらない。

 姿を隠しているとしたら厄介だ。

 スズハさんの言う通り、襲われる覚悟で探すしかないか。


 そう思って降りようとしたとき……西の広場へ走っていくテアさんの後ろ姿を見つけた。

 逃がすもんか!

 私は飛び降りるようにして地上に戻ると、テアさんを追い始めた。


 ◇◇


 西の広場に着くころ、テアさんにはすぐに追いついた。


「あらあら、追いつかれてしまいましたね。うふふ」


 テアさんはドレスのような服をひるがえして振り返る。

 その顔には余裕とも取れる笑みが浮かんでいる。

 追いついた、というよりは、誘われた、といった方が正しいのかもしれないね。


「ごきげんよう、お花さん。こんなところで再会できるとは、偶然ですね」


 芝居がかった動作でお辞儀をするテアさん。

 そんなお芝居に付き合うつもりはないよ。

 私は首を横に振ると、地面に降りて足代わりにしていた蔓をテアさんに向けて伸ばす。

 テアさんの顔からすうっと笑みが消える。


「はあ、つまらないですわ。やはりあの冒険者、いえ、王都近衛騎士団の女から聞いていたのですわね」


 ……え?

 なんで、スズハさんが王都近衛騎士団だって知ってるの?

 秘密裏に追っていたってスズハさんは言ってたはずだけど?


「あら。何ですの、その不思議そうな表情は? まさかわたくしが気付いていないとでも思っていらしたのかしら?」


 テアさんは少し驚いたように眉をあげる。

 というか、なんか言葉使いまで変わっているような……。

 いや、こっちが本来のテアさん――魔物使いのテアなのか。


「ちょうどいいですわ、回収させていただきましょう。バットアイ!」


 テアさんがそう叫ぶと、私の背後から頭上を何か黒いものが飛んで行き、テアさんの伸ばした腕に止まった。

 あれは……えっと、何?

 パッと見はコウモリみたいな大きさと形をしているけど、その胴体には巨大な目が一つだけついている。

 その目がギョロリと動いて私を見る。

 うえっ、気持ち悪っ!


「まったく、あの魔法使いは想定外でしたわ。おかげでミノタウロスどころか、とっておきまで出す羽目になってしまいましたわ」


 魔法使い?

 とっておきを出す?

 ……もしかして、エリューさんのことか!


「それでも足止めにしかならないなんて、本当に想定外ですわ。……まあ、いいでしょう。その間にあなたを捕獲させていただきますわね」


 よかった。

 どうやらエリューさんも無事みたいだ。

 まあ、あの人がやられるところなんて想像できないけどね!

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