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三十六話 警鐘鳴らせ

 あがる煙を見て、響く悲鳴を聞いて、思考が停止する。

 え?

 何、火事?


 呆気にとられたまま南門の方角を眺めていると、村の鐘がカンカンと鳴り響く。

 この村、鐘なんてあったんだ。

 というか、今度は何よ?


「警鐘!?」


 キャティさん、何か知っているの?

 警鐘ってことは、やっぱり火事とかなのかな?


 私は南門を指差して首を傾げてみる。

 キャティさんは「ちょっと待って」と言うと、目を瞑って音に集中し出す。

 と思いきや、すぐに目を見開いた。

 その表情は驚愕に染まっている。


「これ……魔物が村に侵入した合図よ!」


 うぇ!?

 え、南門ってかなり頑丈そうだったよね?

 柵よりも一段高い木造の門構えと、同じく分厚い門を思い出す。


 少なくとも、魔法を使わなければ私でも壊せる気がしない。

 ポイズンバイパーのような巨体とか、ミノタウロスのような剛力とか、はたまた角イノシシの群れとかじゃないと厳しいと思う。

 かといって、門以外の所には魔物除けの結界が張ってあるはずだ。

 門から入ってきたのは確実だろう。


 そんなことを考えている間にも、悲鳴は徐々に近づいてくる。

 それを聞いた近くの人たちも、パニックになりながら北へと逃げ出し始めている。

 門番は、兵士トリオは、ジルドは何してるの?


「お花ちゃん、村長の家が避難所になっているの! 幸い今日は会合で兵も集まっているはずだし、そこまで逃げるわよ!」


 あ、会合か!

 くっそう、タイミング悪い時に……。

 キャティさんは軽くまとめた荷物を持って、私に手を伸ばしてくる。

 けど、私は首を横に振ると、南門の方を指差す。

 戦える私が逃げるわけにはいかないよね。


「――分かったわ。気をつけてね!」


 キャティさんはすぐに言いたいことを理解してくれたのか、それだけ言い残すと北へ向かって避難していった。


 あ、ミーシャやジルドへ伝言頼めばよかった。

 ……まあいいか。

 どうせ黒板に書いてる暇なんてなさそうだし。


 思考を切り替えて、南に目を向ける。

 避難所らしい村長の家へ向かって人の波ができている。

 無理にかき分けていくのは難しいし、危ないよね。


 辺りを見渡す。

 何か南へ行く方法は……。

 まあ、あれしかないか。


 キャティさんの露店の隣から横道へ入る。

 抜けた先の道にも人の波ができているけど、それは問題ない。

 私は横道に一本だけある木へ近づくと、蔓を太めの枝に巻き付け、身体を持ち上げる。

 そして、屋根の上へと飛び乗った。


 道が混雑してるなら、道じゃないところを行くしかないよね。

 そのまま屋根づたいに移動しながら、考えを巡らせる。


 さっきは会合がタイミング悪いって思ったけど、よく考えると逆だ。

 タイミングが()()()()

 もちろん偶然ってこともあり得るし、むしろ偶然と考えるのが自然だ。

 けど、この前のクモ退治のとき、ジルドが不自然だと言っていたのをなぜか思い出した。


 よくよく考えれば、村の人が狩りへ行ったタイミングで珍しい魔物が村の近くに現れる、というのも不自然だよね。

 なにか人為的なもの感じるようで、あまりいい気がしない。

 うーん、考えすぎならいいんだけど。


 と、不意に寒気を感じて立ち止まる。

 その直後、私の目の前を、顔ほどの大きさのある岩が通りすぎていった。


 ――ぎゃああ!

 ちょっ、今の何!?

 慌てて屋根から見下ろす。


 所々に草木の生えた、ちょっとした自然公園のような広場で、一体の魔物が私を見ていた。

 あの姿、忘れもしない。

 ミノタウロスだ!


 敵意のこもった赤い眼で、睨みつけられる私。

 え、何?

 何か恨まれるようなことした?


 前……は石投げつけてたか。

 でも今回は何もしてないはずだ。

 もしかして、前のミノタウロスのお知り合い?


 ミノタウロスは腰を屈めると、地面に転がっている岩を拾い上げた。

 よく見ると、ミノタウロスの周りには小さな岩が散乱している。

 もしかして、投げやすいようにわざわざ壊したの?

 ――って、のんびり観察してる場合じゃない!


 私は右手を伸ばすと『ウォーターボール』を作り出す。

 ウォーターボールができあがったのと、ミノタウロスが腕を振り下ろしたのが同時だった。


 文字通り、瞬く間に迫る岩に目掛けてウォーターボールを打ち出す!

 数メートル先で、ウォーターボールと岩がぶつかり合い、弾けた。


 ひいいー!

 か、間一髪だった!


 ウォーターボールで相殺したのは、後ろに人の波があるからだ。

 一発目は大丈夫だったみたいだけど、何度も偶然が続くわけがない。

 でも、ウォーターボールで相殺できたのも、ほとんど偶然だ。

 それを知ってか知らでか、またも岩を拾い上げようとするミノタウロス。

 させないよ!


 私は後ろの蔓二本を伸ばすと屋根から飛び降りる。

 蔓を膝代わりにクッションにして、静かに地面に着地する。


 降りてきた私を見てミノタウロスは岩を拾うのを止めた。

 その顔はどこか勝ち誇った表情をしているように見える。

 うん、これ絶対に相手の思惑通りだよね。


 ……まあ、降りてしまったものは仕方がない。

 私だって、昔とは違うんだ。

 覚悟を決めろ!

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