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三十二話 VSパラズ・タラス

「ジルドお兄ちゃん、あれ何なの!?」

「パラズ・タラス。見ての通りクモ系の、それもCランクに近い魔物だ。麻痺毒を持っているから、噛まれないように気を付けろ」

「そういう意味じゃなくて! ……って、お花さん!? なんで逃げないの!?」


 ミーシャたちが逃げようとする中、私は動かずにじっとクモを見る。

 全長二メートルくらいだろうか。

 ポイズンバイパーという桁違いの大きさの魔物を見ているから、そこまで大きくは感じない。

 黒い全身に黄色いまだら模様があり、正直見ているだけで気持ち悪い。


 別に、私が犠牲になってミーシャ達を逃がすとか、そんな殊勝な考えを持っているわけじゃない。

 ただ、私の根っこの移動速度じゃ、すぐに追いつかれるだけだ。


 蔓を伸ばして移動すれば逃げ切れるかもしれないけど、逃げ切れなかったら背後から襲われる。

 そんな博打は打ちたくない。


「行くぞ、ミーシャ!」

「や! お花さんが残るなら、わたしも残るの!」

「ちっ! おい、花。何をしている!」


 花って、どんな呼び方だよ。

 なんて心の中で突っ込みを入れていると、クモが動いた。


 八本の足を器用に動かし、意外と素早い動きで地面を走ってくる。

 開いた口には牙が見えており、黄色いドロッとした液体がにじみ出ている。

 あれが麻痺毒かな?


 後ろにはミーシャがいるから、ここで避けるわけにはいかない。

 私は『棘の蔓』を二本伸ばすと、一本をクモの左前に向かって刺すように突き出す。

 クモはそれを横へずれて軽々と避ける。

 さらにもう一本、もう一度左前に向かって突き出すが、これも避けられる。


 うーん。

 予想以上に素早いね。

 まあ、クモ、私、ミーシャの一直線上の並びからそらすことができたし、クモの狙いを私に引き付けることもできた。

 ここまでは、計画通りだ。


 私は向かってくるクモを棘の蔓を左右から突き出して牽制しながら、右手を前へ向ける。

 イメージするのは水の球を打ち出す魔法『ウォーターボール』。

 昔と違い、魔素の吸収から魔法の構築まで、わずか数秒で完成する。

 練習の成果を見せるよ!


 棘の蔓を繰り出すのを止めると、すぐさま一直線に向かってくるクモ。

 そのクモの顔面めがけて、ウォーターボールを撃ち出す!


 仕留めた! と思いきや、すんでのところでバックステップから身体を右に捩じるクモ。

 ウォーターボールはクモの右足の一本に当たると、半ばから足をへし折った。

 さらに勢いは止まらず、クモの巨体を後ろへと弾き飛ばす。


 うそー。

 今の避けちゃうの?

 どんな反射神経してるんだよ。


 ……ふう、落ち着け。

 避けられたのはかなり驚いたけど、今は置いておく。

 それよりも、同じ手は通用しないと思った方がいい。

 さて、どうしよう?


 次の手を考えあぐねていると、体勢を立て直したクモが近くの木へと登り始める。

 木の幹に張り付いたまま、器用にお尻をこちらに向けた。

 うん?

 クモ……お尻……?

 って、糸か!


 咄嗟に後ろの蔓を伸ばすと地面に叩きつけ、その反動で右へとジャンプする。

 その直後、さっきまで私がいた場所へクモの糸が吐き出された。

 危なっ!

 あと少し気付くのが遅れてたら、捕まっていたよ。


 ただ、先を確認せずにジャンプしたのがいけなかった。

 私が飛んだ先には、槍を構える槍男と、その後ろに隠れるようにミーシャがいた。


「ちっ、こっちに来てどうする」


 また舌打ちされた。

 仕方がないじゃん、咄嗟のことだったんだし。


「お花さん、わたしのことはジルドお兄ちゃんが守ってくれるから! だから、気にしないで大丈夫なの!」


 槍男の後ろから顔を覗かせたミーシャが叫ぶ。

 守るって、コイツが?

 私は訝しげに槍男を見る。


「……初めから言っているだろう。ミーシャの護衛は俺一人で十分だと」


 ……ははっ。

 よく言うよ。


 私は木から降りてきたクモへと向き直る。

 でも、まあ、後ろを気にしないで戦えるのはありがたいね。

 巻き添えを食らわないようにミーシャを守ってよ、槍男(ジルド)


 私は『棘の蔓』と『花の蔓』を全て伸ばす。

 さらに、右手を伸ばして『ウォーターボール』を作った。


 クモが素早い動きで迫ってくる。

 私の数メートル手前でジャンプし、そのまま噛みつこうと鋭い牙を覗かせた。

 そんな見え見えの攻撃、当たらないよ。


 私は後ろの棘の蔓二本を木の枝に巻き付けると、身体を上へ引っ張る。

 同時に、花の蔓を宙にいるクモへ向けると、毒花粉を噴射する。

 クモが毒花粉でできた紫色の霧の中に突っ込んでいくのを確認しながら、私は蔓をしならせ大きくジャンプした。


 毒を持つクモに毒花粉が効くなんて思ってない。

 これはただの目隠しだ。


 クモからしてみれば、毒花粉で視界が悪くなった後、突然私が消えたように見えるはずだ。

 もちろん、音や気配ですぐに見つかるだろう。

 でも、その一瞬の隙さえあれば十分。


 私はキョロキョロと辺りを探すクモの後ろに着地すると、棘の蔓四本全てでクモの後ろ足と身体を押さえつける。

 クモは突然の事態に暴れるが、もう遅い。

 この状態なら避けられないでしょ!


 右手に準備したウォーターボールをクモの背中に添えると、ゼロ距離で撃ち込んだ。

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