表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/164

三十一話 昔とは違うのだよ、昔とは

 村長から依頼を受けた翌日の昼前。

 今日も元気に照りつける太陽の下、私とミーシャはいつも通り二人で門の前にいた。


 ちなみにこの村には、私が初めて来たときに使った南門と、もう一つ東門があるらしい。

 らしいというのは、東門の先にはずっと森が広がっているため基本門番もおらず、開けることもないと聞いたからだ。

 じゃあ何で作ったと突っ込みたい。

 もちろん、今いるのは南門だ。


「ジルドお兄ちゃんまだかな」


 手持ち無沙汰に雑草を引っこ抜いていたミーシャが呟く。

 私は魔素を集めるのを止めると、村へと続く道へ顔を向けた。


 別に槍男が遅れているわけではない。

 家で待っていてもミーシャがソワソワして落ち着かないので、早めに来ただけだ。

 気に食わない奴だけど、ミーシャがお兄ちゃんと呼ぶくらい慕っているのはよく分かる。


 さらに十分ほど待っていると、槍男が肩掛けのバッグといつもの槍を持って現れた。

 一瞬だけ私を見るとすぐに視線を外し、門へと歩き出す。


「ふんっ、行くぞ」

「あ、待ってよ、ジルドお兄ちゃん!」


 ミーシャが慌てて立ち上がり、槍男を追いかける。

 ……うん、例えミーシャが慕っていても、私には無理だわ。

 私は考えるのを止めると、二人の後を付いていった。


 ◇◇


 当たり前だけど、薬草には色々な種類がある。


 ミーシャが森で主に集めてエリューさんの店に持ち込んでいるルイ草。

 ルイ草は、そのままでは効き目の悪い止血剤としか使えないが、他の素材と調合することで質の良いポーションになるらしい。


 他にも、毒消しとして使えるアズの葉や、火傷した箇所に貼るヨルン草、さらには腰痛に効く花の蜜なんてものもある。


 これらの薬草はすべてこの森で採取できる。

 普段の生活で使うこともあるし、他の町村から来る行商人に対して売ることもある。

 森の中にある村にとって欠かすことのできない、まさしく自然の恵みなのだ。


 今回依頼されたクポタ草もそんな薬草の一種で、寒くなると黄色い綺麗な花を咲かせる植物らしい。

 とはいえ今はまだ暖かい時期。

 花以外に特に目立った特徴のないクポタ草は見つけるのが難しい。


 そんなわけで、私は薬草探しに関しては早々に諦めていた。

 ちなみに、薬草についての知識は全部ミーシャとエリューさんの受け売りだ。


「うーん、これじゃないし……ひゃっ!」


 木の根っこに躓いたミーシャの身体を、咄嗟に腕を出して支える。

 これで転びかけたのは三度目だ。

 キョロキョロと辺りを見渡しながら歩いているからか、足元の注意が疎かになっているみたいだ。


「ありがとうなの、お花さん」


 どういたしまして。

 まあ、他にやることがない、っていうのもあるんだけどね。


 周りの警戒に関しては、少し前を歩いている槍男がやっている。

 もちろん私は私で警戒しているけどね。


「お花さん、ジルドお兄ちゃん、そろそろ休憩してお昼にしよ?」


 ミーシャは少し疲れた様子でそのまま木の根に座り込んだ。

 確かに、村を出てからずっと歩きっぱなしだし、それにもうとっくにお昼の時間だ。


「そうだな。ここで一度休憩にするか。俺は少し周りを見てくるから、先に食べていろ」


 槍男が前から戻ってくると、そう言い残して木々の間に消えていった。

 それを見たミーシャは頬を膨らまし、


「もう、一緒に食べようと思ったのに! いいもん、お花さん、先に食べちゃお!」


 と、ポーチからパンと数種類の果物、それにナイフを取り出した。

 パンは朝に村の露店で買っておいたもので、果物は森の中で見つけた際に取っておいたものだ。


 私はミーシャから果物とナイフと受け取ると、それぞれ皮を剥き、薄くスライスする。

 それを、切り込みを入れたパンに挟めば、フルーツサンドのできあがりだ。


 ふっふっふっ。

 果物をそのまま丸かじりしていた昔の私とは違うのだよ。


「わあ! お花さん、すごくおいしそうなの!」


 ミーシャも喜んでくれているみたいで嬉しい。

 ナイフを返して、代わりに水の入った皮袋を受け取る。

 この水にも、森で取った柑橘系の果物の果汁を入れてある。

 森の恵み様様だね。


「じゃあ、いただきます!」


 いただきます。

 フルーツサンドを一口食べる。

 パンは少しかためだけど、フルーツのみずみずしさがそれをカバーしていて、美味しくなっているね。


 ただ……生クリームを忘れていた。

 これは完全に失態だね。

 村に戻ったら探してみようかな。


 そんな失態を知らないミーシャは、始終満足気な顔で完食してくれた。

 まあ、結果オーライかな。


 皮袋から水を飲みながら、木々に覆われた空を眺める。

 しばらくゆったりとした時間が流れる。

 木漏れ日が暖かくて、だんだん眠くなってくる。


 少しウトウトし始めたとき、草むらが揺れる音が聞こえる。

 そういえば、槍男が見回りに行ってたけど、すっかり忘れていた。

 ようやく帰ってきたのかな。


 そちらに目を向けると、予想通り槍男が立っていた。

 ――ただし、血相を変えて、息を切らしながら。


「パラズ・タラスだ。逃げるぞ!」


 槍男がそう言うや否や、森の奥から巨大なクモが顔を現した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ