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二十七話 目指せ脱紐生活

 鬱蒼(うっそう)と草木が生い茂る森の中、私とミーシャは木の上で身を潜めていた。

 もちろん、魔物を狩るためだ。

 狙うは今日のお昼にもなった角イノシシ――ミーシャいわく『ホーンボア』――だ。


 村を出る際、ミーシャが着いてくると言い出したり、村長の家へ許可を貰いに行ったりと、一悶着あった。

 結果、私が一緒なら、という条件でミーシャも森へ出ることを許してもらえた。

 ポイズンバイパーを倒せる実力があるなら大丈夫だろうとのことだ。

 私も魔物なんだけど……そんな条件でいいの?

 いや、何もしないけどさ。


 などとさっきまでの出来事に突っ込みを入れていると、ガサゴソという音が聞こえてくる。

 顔をあげると、遠くの草むらから角イノシシが頭を覗かせていた。

 待ち始めてからそんなに時間がたってないのに、幸先がいいね。


「お花さん、ホーンボアだよ!」


 ミーシャが興奮した様子で角イノシシを指差す。

 私はミーシャの口に手をあてて静かにさせる。

 角イノシシが私たちに気づいた様子はない。

 私が首を横に振るとミーシャが頷いたので、手を離した。


「どうするの?」


 ミーシャが小声で話しかけてくる。

 もちろん作戦は考えてある。

 遠距離用の攻撃手段がない……というのは昨日までのこと。

 そう、今の私には魔法がある!


 手のひらを角イノシシに向けるように、右手を前に伸ばす。

 魔素を集め、魔力に変換し、魔法をイメージする。

 イメージするのは、午前中ずっと練習していた水の魔法。

 右手の前にできた水の球が、みるみるうちに大きくなっていく。

 水の球がこぶし大ほどになったところで、角イノシシに向けて思い切り飛ばす!


 水球は、吸い込まれるように角イノシシへ向かって飛んで行き――角イノシシの身体を揺らした。


 えー。

 思ったよりも威力がない。

 撃ち抜けるとは思ってないけど、せめて横倒しにするくらいはできると思っていたのに。

 まだまだ練習が必要かな。


 まあ、今回は仕方がない。

 私は蔓を伸ばすと足元の枝に巻き付け、ミーシャを残して地面に降りる。

 角イノシシも私の存在に気づいたようで、鼻息荒く頭の角を私に向けた。

 あー、うん。

 そりゃ怒ってるよね。


 突進してきた角イノシシを、枝に巻きつけたままの蔓を引っ張り避ける。

 さらに棘の蔓をもう二本伸ばし、下を通りすぎようとする巨体に突き刺す。


 わっ、と!

 足をもつれさせて地面を滑っていく角イノシシに引っ張られるが、すぐに止まる。

 結構深く刺さっていた棘の蔓を抜き、しばらく様子を窺うが、起き上がってくる様子はない。

 何回か蔓で突いてみても反応はない。

 死んだみたいだね。


「終わったの?」


 木の上からミーシャが恐る恐る小声で話しかけてくる。

 顔を上げて頷くと、ミーシャが木の幹を伝って器用に降りてきた。


「それで、このホーンボアどうするの?」


 あっ……。

 運ぶ方法考えてなかった。

 え、どうしよう?


 とりあえず、ポイズンバイパーのときと同じく、一度村に戻って解体できる人を連れてくるかな。

 それが一番確実な方法だとは分かってはいるけど、正直、往復が面倒だ。

 確実に魔物が出るようにと、村からそこそこ離れた場所まで来ているのが仇になってしまった。


 ミーシャに解体してもらうというのはどうだろう。

 私はミーシャと角イノシシを順に指差した後、角イノシシの背中をナイフで捌くような動作をし、最後に首を傾げてみる。

 ミーシャは「解体なんてできないよ!」と言いつつ首を横に振った。

 ですよねー。


 うーん。

 やっぱり村まで持っていくしかないかな。

 辺りを見渡してみると、ト○ロが傘代わりにしてそうな大きな葉っぱが目についた。

 お、ちょうど良い大きさだ。

 棘の蔓を伸ばして茎を切り、角イノシシの隣に三枚ほど重ねて置く。

 さらに蔓で角イノシシを持ち上げ、葉っぱの上にそっと横たえた。


 あとは引っ張っていくだけだ。


「え? これ持って帰るの?」


 ミーシャがホーンボアの置かれた葉っぱを見て驚いた声をあげる。

 そういえば、森に来ることは伝えたけど、理由までは言ってなかったかな。

 いきなり村の外に出て、いきなり魔物を倒して、さらにそれを持ち帰ろうとしたら、そりゃあ驚くよね。


 私は左手で角イノシシを指差し、右手でお金のジェスチャーをする。

 この世界でもジェスチャーって通じるかな?


「えっと……ホーンボアが……?」


 残念、通じなかった。

 ミーシャは角イノシシと私の右手を交互に見つつ、首をひねってウンウンと唸っている。

 やがて、何かを閃いたかのように両手を打ち合わせた。


「お花さん! 帰ったら文字を教えてあげるの!」


 ……なるほど、文字ね。

 確かに、喋れないけど、言葉が理解できないわけじゃない。

 筆談ができるようになれば、ミーシャや他の人との意思疎通がもっとスムーズになる。

 うん、とってもありがたい申し出だ。


 私は頷いてミーシャの頭を撫でる。

 ほんと、よく頭が回る子だね。


「そうと決まれば、急いで帰るの!」


 ミーシャは嬉しそうに目を細めると、私の手からするりと抜け出し、早足で私の先を歩き始める。

 私も角イノシシが乗った葉っぱの茎を後ろ手に持つと、ミーシャを追いかけ始めた。

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