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二十四話 ヘビ肉BBQ

 視線が集まる。

 すれ違う人が奇異の目で振り返る。

 立ち止まっている人は「魔物?」と呟く。

 中には首を傾げた後、目をこすっている人もいる。

 うん、思いっきり注目されてるね。


 村長の家に行くときに通った中央通りを、ミーシャと歩いている。

 ミーシャが周りの視線を気にした様子はない。

 私も昨日と今日ですっかり慣れてしまった。

 乙女としては慣れちゃいけない気がするけど、こればかりは仕方がない。

 気にしたら負けだ。


「何食べようかな? あ、お花さん、お肉って食べられる?」


 ミーシャが振り向いて質問してくるので、頷いておく。

 思い出したくもないけど、イノシシの肉(しかも未調理)を食べたことはある。

 だから、ひさしぶりにちゃんと調理された肉を食べたいくらいだ。


 私が頷いたのを見てまた考え出すミーシャ。

 そこへ突然声がかかった。


「あー! ミーシャちゃんとお花ちゃんじゃない!」


 顔を前に戻すと、エプロンを着けた女の人が、ネギのような野菜をこちらへ向けて立っていた。

 ……なぜにネギ?

 というか、どちら様?

 いや、たぶん、昨日の解体職人の一人なんだろうけど。


「こんにちは」

「はい、こんにちは。あ、お花ちゃん、左腕治ったのね!」

「さっきエリュー婆のところで治してもらったの」

「ああ、エリューさんね。さすがだわ。……じゃなくて、ちょうどいいところにいるわね! ちょっとこっち来てちょうだい!」


 ミーシャの右手を掴んで引っ張っていくお姉さん。

 近くの狭い小道に入り、中央通りから外れるように進む。

 やがて、少し開けた広場のような場所に出た。


 広場には数十人くらいの人たちが集まっている。

 それと、何やらおいしそうな匂いも漂ってくる。

 何かのイベントでもやっているのかな?


 お姉さんは私たちを引っ張ったまま、人だかりの端へと向かう。

 私に気づいた人が声をあげ、それが伝搬し、半数近くの人が私たちを見る。

 いくら慣れたとはいえ、これはさすがに恥ずかしい、というよりむしろ怖い。

 ミーシャもオロオロと辺りを見渡しながら歩いている。


 広場の端に着くと、バーベキューで使うような網がいくつも並び、その上ではお肉が焼かれていた。

 煙に混じって香ばしい匂いが立ち上ってくる。

 広場に漂っていたおいしそうな匂いはこれか。


「昨日のヘビ肉よ。こんな大量のお肉、早く食べないと腐るからね。ここでちょっとした宴をやってるのよ」


 お姉さんはようやくミーシャの手を離して説明してくれる。

 確かに、数メートルはあるポイズンバイパー丸ごとだと、かなりの量のお肉になる。


「みんな、二人に感謝してるわ。ありがとうね!」


 お姉さんを皮切りに、あちらこちらからお礼の声があがる。

 ちょっと照れくさい。

 けど、これで少しはこの村に馴染めたかな。

 隣で今度は赤面してオロオロしているミーシャの頭に手を乗せる。

 不思議そうにこちらを見るけど、これも全部ミーシャに出会ったおかげなんだよ。


 その後、ミーシャが質問攻めにあうのを眺めながら、ヘビ肉をいただいた。

 だって私に質問されても答えられないし。

 ミーシャ、君の犠牲は忘れないよ!


 ちなみに、ヘビ肉は鶏肉に似た淡白な味で意外とおいしかった。


 ◇◇


 解放されたミーシャと一緒に広場の反対側へぐるっと移動する。

 私だけ逃げたのが不服だったのか、しばらく頬を膨らませていたが、ヘビ肉を食べ終えた頃にはすっかり機嫌も戻っていた。

 広場の反対側では、ちょうど王都から来ている行商人が露店を開いているらしい。


 露店の周りには人だかりができており、すぐに発見できた。

 しかも、私たちを見た人が皆、親切に道を開けてくれる。

 ありがたいけど、いいのかな。

 ミーシャはお礼を言って進んでいく。

 まあ、今回は好意に甘えることにしよう。


 人だかりを抜けると、馬車の荷台をそのまま使った簡易的な露店が開かれていた。


「いらっしゃ……!?」


 露店の前にいた二十代半ばの女性が私を見て絶句する。

 少し高そうな服を着て、その上から緑色のケープを羽織っている。

 この女性が店主なのだろうか。


「な、なんでこんなところにアルラウネが!」

「大丈夫だよ。お花さんは優しいから、危なくないよ!」

「……あ。そ、そうなんですか?」


 恐る恐るといった様子で私に尋ねてくるので、頷いておく。

 というか、前も誰かと同じようなやりとりをしたような気がする。


「わっ、言葉も分かるんですね!」

「えへへ、凄いでしょ! お花さんは頭もいいんだよ。ゆにーくこたいなんだよ!」

「な、なるほど? あ、申し遅れました。私はテアと言います。各地を周っている、しがない行商人です」

「わたしはミーシャ、で、こっちがお花さんなの!」

「ミーシャちゃんと……お花さん、ですね。よかったら見て行ってください」


 荷台には、布や糸、毛皮といったものから、何かの香辛料のような乾燥した植物まで、様々な物が仕分けされて置かれている。

 ミーシャは並べられた品物を物珍しげに見ており、テアさんはその品物について解説してくれている。

 そんな二人の様子を後ろから眺めていると、ふと強い視線を感じた。


 顔をあげると、広場の一番隅、木にもたれ掛かった黒髪の女性が、私たちを睨むように見つめていた。

 一瞬だけ目が合うが、すぐに逸らされてしまう。

 え、何、今の?


「ああ。彼女はこの村まで護衛で付いてきてくれた冒険者です。道中もずっとあの様子で、ほとんど喋らなかったんですよ」


 テアさんも見ていたのか、説明してくれる。

 私は再びあの女性がいた木を見るが、すでにそこに姿はなかった。

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