二十二話 どうやら私はユニークらしい
エリュー婆と呼ばれた、目付きの悪い女性。
肩まで伸びる真っ赤な髪を白い手拭いで縛り、白衣のような上着を着ている。
でも、不健康そうだけど綺麗な白い肌を見るに、『婆』という歳じゃないよね。
「さっきから人のことをジロジロ見て、何か不服なのかい?」
うっとうしそうに私を見る目をキツくする。
ひっ、すみませんっ!
「エリュー婆が睨むからなの!」
「睨んでない。あたしゃ生まれつきこの顔だよ」
「じゃあ、エリュー婆の歳が気になるからだよ! お花さん! エリュー婆は若いように見えるけど、実際はひ――んむっ!」
瞬く間にミーシャの口を手で抑えたエリューさん。
ま、全く見えなかった。
ミーシャは必死でもがくが、エリューさんの手を剥がせないでいる。
「ったく、軽々しく女の年齢を口にするもんじゃないよ」
「むー! むー!」
「いいかい、今度言ったら――」
エリューさんがミーシャの猫耳に顔を寄せて、何かを呟く。
あ、しっぽの毛が逆立った。
ミーシャは青くなった顔を何度も縦に振る。
ちょっと、何言ったのか非常に気になるんだけど。
エリューさんが口から手を放す。
ミーシャは黙ったまま固まっている。
いや、ホント、何言われたのよ。
「で、ミーシャ。今日も薬草持ってきたんだろう? 見てやるから早く出しな」
ミーシャはハッとすると慌ててバッグから薬草を取り出し始めた。
カウンターに薬草が積み上がっていく。
その量を見てエリューさんは呆れた表情を浮かべた後、ため息をついた。
「はあ。……ミーシャ、あたしゃロウイと違って森に入るなとは言わないよ。けどね、自分の実力を見誤るんじゃないよ。これだけの量、森の深くまで入らないとなかなか集まらないだろうに」
「……ごめんなさい」
「反省はしたと昨日ロウイから聞いてるから、もういいさ。それと、そこの魔物。ミーシャを助けてくれたんだってね。あたしからもお礼を言っとくよ、ありがとね」
へえー。
ミーシャのことを思って怒り、私にお礼も言う。
目付きや言動はちょっと怖いけど、意外と優しい人なんだ。
あと、ロウイというのは、村長のことか。
村長のことを名前で呼び捨てって、この人本当に何者なんだよ。
「さてと、それで、薬草はこれで全部なのかい?」
「うん!」
「なるほど、状態はいいようだね。それに量も多い。ちょっと待ってな」
薬草を何束か手に取り確認した後、エリューさんは奥へ行ってしまう。
しかし、すぐに袋を手に持って戻って来ると、袋から銀色のメダルのようなものを何枚か取り出してカウンターに置いた。
メダルには人の肖像や何かの植物のような絵が描かれている。
もしかして、これって、お金?
「薬草全部で銀貨これだけだね」
「え、こんなに! いいの!?」
「いいから持っていきな。ただし、今後は無茶するんじゃないよ」
「……ありがとう、エリュー婆!」
やっぱりお金なんだ。
しかも銀貨!
この世界のお金の価値は分からないけど、ミーシャの反応を見るに、それなりの金額のようだ。
ミーシャはバッグから袋を取り出すと、カウンターに置かれた銀貨を丁寧に入れて、バッグに戻した。
「で、そっちの魔物――アルラウネか。その腕はどうした?」
「そうだった! エリュー婆、お花さんの腕、治せる?」
「見てみないことには何とも言えんな。まあ、くっついているならたぶん大丈夫だろうよ」
んん?
ちょっと待って。
今、私のことアルラウネって言った?
前に村長が、私のことをアルラウネじゃないと言っていたのを思い出す。
え、どっち?
「何を不思議そうな顔をしているだい? あんたのことだよ、アルラウネ。いや、ユニーク個体だから、アルラウネと呼ぶのも変ではあるか」
「エリュー婆、ゆにーくこたいって何?」
「魔物の中には、まれに普通とは異なる成長を遂げる個体がいる。それがユニーク個体だよ。大抵は魔力を多量に溜めこんだ結果だが、環境や食べ物の変化が要因となる場合もあるらしい。ま、あたしゃその辺りは専門じゃないから、詳しくは知らないがね」
なるほど。
私の場合、要因は私自身なんだろうね。
魔物の身体に、人間である私の記憶。
それがユニーク個体になった理由だと考えなくても分かる。
あと、私がもともとこの世界の人間じゃないというのも大きいと思う。
「……えっと、お花さんは、特別なアルラウネってこと?」
「ま、要はそういうこった」
ミーシャは理解しているのかしていないのか微妙な表情で考え込んでいたが、諦めて大ざっぱに要約した。
まあ、間違ってはいない。
つまり私は、ゲームでいうところの『レアモンスター』というわけだ。
やったね!
で、小説とかだと懸賞金がかけられたり、討伐隊が組まれたりするやつだ。
うん、よくないね!
「お花さん、凄いんだね!」
「そもそも、アルラウネが自力で移動していること自体おかしいんだよ。それに加えて、あたしらの言葉を理解する知能の高さ、感情の豊かさ、さらに保有する魔力量。もういっそ魔物に変えられた人だと言われても驚かないよ」
おおう。
ほぼ言い当てたちゃったよ、この人。
こっちが驚きだ。




