表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/164

二十一話 エリュー……婆?

「お花さん。寝てるの? 朝だよ」


 ミーシャの声で目を覚ます。

 ミーシャは私の顔を覗きこんで、手を振っていた。

 うん? 何してるの?


「あ、起きた。えっと、寝てたんだよね?」


 なんで疑問系。

 目開けたまま寝てたわけじゃないだろうし……ないよね?

 首を傾げてみる。


「だって、こんなところで立ったまま寝てるなんて思わないよ?」


 ……あー、なるほど。

 昨夜、ミーシャを寝かせてから私も寝ようとしたんだけど、腰の花が邪魔で横にはなれなかった。

 仕方がなく、部屋の空いてるスペースで立ったまま寝てたのだ。

 転生して以来ずっと立ったまま寝てるから、違和感がなくなっていたらしい。


「さ、朝ごはん食べよ」


 私が一人納得している間に着替え終えたミーシャと一緒に隣の部屋へ移動する。

 ミーシャは棚から果物を取り出すと、いくつか手渡してくれる。

 手渡された干し柿のような果物を見る。

 こういう果物……なわけないよね。

 乾燥させて日持ちするようにしたのかな。


 さらに水の入った木製のコップも渡してくれた後、イスに腰掛け食べ始めた。

 私も一口かじってみる。

 みずみずしさはないが、その分甘さが凝縮されているように感じる。

 これはこれで美味しいね。


「お花さん、今日はエリュー婆のところに行くから、一緒に来て」


 ミーシャが干し果物を食べながら、そんなことを言う。

 いや、エリュー婆って誰よ。

 私の心のツッコミを知ってか知らでか、ミーシャが補足してくれる。


「エリュー婆はね、この村の薬師なの。あと、昔は冒険者だったみたいで、魔法についてとっても詳しいの。わたしにヒールの魔法を教えてくれたのも、エリュー婆なんだよ!」


 おお!

 それは色んな意味で期待できる人だ。


 ミーシャにヒールを教えたということは、そのエリュー婆という人もヒールが使えるということだ。

 つまり、この折れたままの左腕を治してもらうことができるかもしれない。


 それに、できれば魔法も教えてもらいたい。

 せっかくファンタジーな世界に転生したんだし、魔法は使ってみたい。

 魔物の私が魔法を使えるのかは知らないけど、なんとなくできそうな気はする。


 簡単な朝食を終えると、ミーシャは私の右手を掴んで引っ張っていく。

 外に出ると程よく昇った太陽に思わず顔をしかめる。

 森の中と違って日差しが直に当たって眩しい。


「こっちだよ」


 繋いだ手を引いて砂利道を進んでいく。

 畑で何か作業している男性や井戸端会議をしているおば様たちが、驚いた表情で私とミーシャを見ている。


「え? 魔物?」

「一緒にいるの、ミーシャちゃんよね?」

「あれ、昨日の花だわ」

「昨日の?」

「ほら、さっき話した、ポイズンバイパーの解体の――」

「ああ、あの話ね」


 どうやら昨日の解体職人がいるらしい。

 再び井戸端会議に戻ったおば様たちを横目に通り過ぎていく。


 ミーシャの案内で道を外れて進むと、やがてポツンと佇む一軒家が見えた。

 怪しい雰囲気漂うその家の前には、何やら文字が書いてある看板が立っている。

 うん、読めない。

 言葉が分かるからもしかしてと思ったんだけど、さすがに文字は読めないらしい。

 そもそも、なんで言葉が分かるのかも不明なんだけどね。


「いるかな? エリュー婆、すぐどっか行っちゃうから」


 ボソッと不安になる言葉を呟くミーシャ。

 エリュー婆……どんな人だよ。

 ミーシャが扉を開けると、チリンチリンとドアベルが鳴り響く。

 中は小さな店のようになっており、棚には緑色の液体の入ったビンや何かの植物、変な形の石など雑多な物が置いてある。

 さらに、何かの薬品が混ざったような、独特な、でもどこか懐かしい匂いがする。


 懐かしいって、また意味の分からないことを……。

 何、私、どこかの研究者だったわけ?

 いや、華の大学生だったはずだ。

 じゃあ、医学部とか薬学部だったとか――もしかして私、頭良かったの?


 ……何も思い出さないということは、違うらしい。

 残念。

 というか、これ、保健室とか病院の匂いじゃん。


「いらっしゃい。って、ミーシャかい」


 ドアベルの音を聞き付けたのか、正面の秤が置かれたカウンターの奥から妙齢の女性が出てくる。

 真っ赤な髪を白い手拭いで縛ったその女性は、気だるげにミーシャから私へ視線を移す。

 が、特にリアクションがない。

 ……あれ?


 昨日と今日で分かったけど、魔物の私は村を歩くだけでかなり注目を集める。

 当たり前だ。

 前の世界で例えるなら、街の中にクマが出たようなものなんだろう。

 私だって驚くさ。


 でも、このお姉さんは当たり前のように私を見ている。

 見ている、というより、観察している感じだ。

 このお姉さん、何者?

 白衣のような上着を着てるから、この店の人っぽいけど。

 エリュー婆って人の娘さんとか、孫とか?


「それが噂の魔物だね。不思議そうな顔をして、もしかして、あたしが驚くとでも思ってたのかい? はん、笑わせんじゃないよ。そんな馬鹿デカい魔力纏っておいて、気付くなと言う方がおかしいさ」


 うっ。

 一気にまくし立てるお姉さんに気圧されて、思わず一歩下がってしまう。

 鋭い目付きも相まって、ちょっと怖いかも。


「んもう、エリュー婆、お花さんが怖がってるよ!」


 かわいく頬っぺたを膨らませるミーシャ。

 ……えっと。

 ミーシャさん、今なんておっしゃいました?

 聞き間違いじゃないよね?


「はん、あたし程度の魔法使いにビビるようじゃ、まだまだだね」

「エリュー婆のことは『程度』とは言わないの!」


 あ、やっぱりこのお姉さんがエリュー婆なんだ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ