十九話 村に帰るまでが解体作業です
「お、大きい――!」
「何メートルあるのかしら」
「うわっ、この鱗、硬っ!」
「この牙もすげえぞ!」
「え、外傷がないのだけれど……」
「……本当ね。これ、死んでるのよね?」
南門へ向かった私たちは、兵士三人組と十人近くの解体職人と合流し、ポイズンバイパーのもとへ戻ってきていた。
もちろん南門で好奇の目線に晒されたのは言うまでもない。
若干慣れ始めている気がするが、きっと気のせいだと信じたい。
ちなみに、アイテムバッグを持ってきた槍男は、村長の家へ引き返していった。
「ミーシャ、これどうやって倒したんだ?」
「えっと……目を瞑ってたから分からないの。お花さん?」
解体職人の一人に聞かれたミーシャが、助けを求めるようにこちらを向く。
だけど、私に振られても困る。
毒のブレスで自滅させたなんて、喋れないと説明のしようがない。
とりあえず、棘の蔓を伸ばして、ポイズンバイパーの口に巻きつけてみる。
これで通じたら凄いね。
案の定、ミーシャを含む全員が首を捻った。
「まあよい。死んでおるのは確かなようじゃしな。さっそく解体に取りかかってくれるかの?」
あ、村長、話そらしたな……。
まあ、今は助かるけど。
私は口に巻き付けた蔓を引っ込める。
「儂とミーシャ、それに手の空いた者は、アイテムバッグに解体を終えた部位を入れていく作業じゃ。お主ら三人は辺りの警戒を頼むぞ」
うん?
私はどうすればいいの?
右にいるミーシャの肩をちょんちょんと叩く。
振り向いたところで、自分を指差して首を傾げる。
「村長。お花さんが、自分はどうするのかって」
「花のお嬢さんかの? う、うーむ。では、ミーシャの作業を手伝ってくれるかの?」
安心の意思疏通で村長に伝えてくれる。
村長は一度悩んだがすぐに指示を出す。
ミーシャに押し付けたとも取れるが、私としてもミーシャと一緒にいるのが一番気楽でいい。
解体職人たちが各々バッグからナイフや布を取り出し、解体を始める。
慣れた手付きでヘビを捌いていくのを、後ろから眺める。
おおー、凄い。
まるでマグロの解体ショをー見てるみたいでちょっと楽しい。
「ぐっ、この鱗、本当に硬いわね」
「ナイフも通らないし、剥がそうにも力が足りないわ」
作業を見ていると、近くの女性陣の困った声が聞こえてくる。
私は棘の蔓を伸ばすと女性たちが持つ鱗とヘビの身体の間に差し込み、思いっきり引き剥がした。
動いているヘビ相手には無理だけど、動かないなら楽だね。
「あ、ありがとう」
「助かったわ。えっと、お花ちゃん?」
どういたしまして。
というか、お花ちゃんって……。
ミーシャがお花さんって呼んでるから、その延長で呼ばれたのは分かる。
分かるけど、なんかこう、少しむず痒い。
「『お花ちゃん』はないんじゃない?」
「じゃあどう呼べばいいのよ?」
「村長みたいに、『お花のお嬢ちゃん』とかどう?」
「少し堅苦しくないかしら」
「『魔物ちゃん』は?」
「それはないわ」
「じゃあ、やっぱり『お花ちゃん』でいいんじゃない?」
一斉に振り向く女性陣。
なんで私を見るのかな?
私が喋れないの、知ってるでしょ。
「こら! 無駄話していないで手を動かせ! 暗くなる前に終らせんと、魔物に襲われるぞ」
「はーい」
村長に怒られて作業に戻る女性たち。
続けて村長は私の方を向くと軽くため息をつき、アイテムバッグの収納作業に戻っていった。
だから、なんで私を見るのかな?
その後、たまに私も鱗剥がしを手伝いながら、解体は順調に進んだ。
そして日も沈みかけた頃、ようやく全ての作業が完了した。
ポイズンバイパーが横たわっていた場所には何も残っていない。
肉は食料、鱗や牙、それに骨は武器や防具、内臓や毒袋は薬の原料として使われるらしい。
また、解体中に出た血は、他の魔物を呼び寄せるからと土を被せてある。
それにしても、ヘビ肉かー。
前の世界でも普通に食べている地域はあったけど、おいしいのかな。
私もそこまで抵抗はないから、一度食べてみたいかも。
「つ、疲れた」
「もう当分はヘビ種の解体はしたくないわ」
口々に疲れたと言う職人たち。
私もあんな大きなヘビとは当分戦いたくない。
「ご苦労じゃったな。お疲れのところ悪いが、暗くなる前に村へ戻るぞ」
結構動き回っていたはずの村長が、アイテムバッグを山ほど抱えて言う。
げ、元気だね。
休んでいた職人たちも渋々と立ち上がり、村長について村へ歩いていく。
その様子を眺めていると、右手を掴まれた。
「わたしたちも帰ろ!」
ミーシャが疲れた様子で、でもどこか楽しげに話しかけてくる。
私はミーシャの手を軽く握り返すと、村長たちを追いかけ歩き出した。
村に着いた私たちは、村長宅の隣にある倉庫へアイテムバッグを置いた後、解散となった。
えーっと。
解散って言われても、行くところないんだけど……。
空き家があれば貸してほしい。
まあ、そんなこと伝えられないし、いったん森に戻るとするかな。
なんて思っていたら、ミーシャが繋いでいた手を引っ張ってきた。
「お花さん、わたしの家に泊まるよね?」
女神から救いの声がかかる。
願ってもないことだ。
でも、家族の人の許可はいいのかな。
「――待つのじゃ」
ミーシャの提案に考え込んでいると、村長から声をかけられた。