十八話 アイテムバッグ
「まあ、その魔物が何であろうと今はよい。それよりミーシャ、ポイズンバイパーのもとへ案内してくれんか? もちろん人手も集めよう」
いやいや。
私が言うのもなんだけど、村に入ってきた魔物の正体、放置でいいの?
危険な魔物だったらどうするの?
というか、そんな中途半端にされると、余計に気になるんだけど。
喋れない私の内心を無視して話は進んでいく。
今ほど話せないのがもどかしいと思ったことはないね。
「ありがとう、村長!」
「ジルドは奥の倉庫から大きめのアイテムバッグを集められるだけ集めて、南門へ来ておくれ」
「分かった」
「儂らは人集めじゃな。幸い、人は集まっておるようじゃが――」
村長が開けっ放しの扉の外へ目を向ける。
釣られて後ろを振り返ると、入り口を囲うように人だかりができていた。
後ろにいたはずの兵士たちが人だかりを抑えている。
ついてこないと思ったら、そんなところにいたんだ。
テーブルを迂回して歩いてきた村長が扉から出ていく。
えっと、私はどうすればいいの?
ここで待ってるべき?
なんて思っていたら、ミーシャに繋いだままの右手を引かれた。
「行こ、お花さん!」
どうやら私も一緒に行くらしい。
まあ、こんな所においてけぼりにされても困るけどね。
ミーシャに続いて外へ出ると、一斉に視線を向けられる。
珍しいものを見る目、怯えた目、好奇心に溢れた目。
様々な目線が私に集まった。
うん、気持ちは分かるけど、私よりも村長を見ようよ。
話が止まっちゃってるじゃん。
「うおっほん! この魔物が珍しいのは分かるが、話の続きをするぞ?」
わざとらしく咳払いをして話を再開する村長。
「解体できる者は南門へ来るのじゃ。ポイズンバイパーは大きいからの、人手は多いほうがよい。あとお主ら、ちょうどよいから道中の護衛を頼むぞ」
集まった住人たちと兵士三人にてきぱきと指示を出す。
「儂らは先に門へ向かうぞ。花のお嬢さんは目立つからの」
「その前に、家に寄っていい?」
「ああ、ええぞ」
野次馬の包囲網から抜け出して、中央通りから外れた砂利道を歩く。
この辺りは家の間に畑が並び、人もまばらにしかいない。
その中の小さな家の前でミーシャは立ち止まり、後ろの私たちへ振り返った。
「バッグの中身を置いてくるから、ちょっとここで待ってて」
ミーシャは扉を開けると、「ただいま」と小さく呟いた。
家の中はひっそりと静まり返っている。
あれ、親は出かけてるのかな?
家の中に入っていくミーシャ。
手を繋いだままの私も引っ張られる。
あ、私は入っていいんだね。
おじゃましまーす。
ミーシャは私が家に入ったのを確認すると、村長を外に残して扉を閉めた。
お世辞にも大きいとは言えない家の中を見渡す。
ここはダイニングキッチンなのだろう、入り口の脇に台所らしき場所がある。
部屋の真ん中には小さい長方形の机とイスが二脚。
今入ってきた入り口と対角のところには、のれんがかかっている。
奥にも部屋があるのかな。
……それにしても、なんだろう?
この家に違和感がある。
ミーシャは私の手を放すと、腰のバッグを外して机の上に置く。
バッグに手を入れて、中から何かの草を取り出していく。
あの草、もしかして薬草かな。
植物としての直感がそう告げている。
へー、全然気づかなかったけど、薬草なんてのも生えてたんだ。
薬草に気を取られている間に、机の上には薬草が積み上がっていた。
……ん?
んん?
ちょっ、ちょっと待って?
なんかおかしくない!?
バッグと積み上がった薬草を見比べる。
どう頑張っても入らないよね?
バッグの中身がなくなったのか、私を振り返るミーシャ。
私はバッグと山を交互に指差して、首を傾げてみる。
「このバッグがどうかしたの? 小さいけど、アイテムバッグだよ?」
ミーシャは当たり前のようにさらりと言う。
いや、そのアイテムバッグって一体何よ?
そういえば、村長も槍男にアイテムバッグを集めておくように言ってたな。
もしかしたら、この世界では当たり前のことなの?
この謎現象から推測するに、どうやらあのバッグは、某ロボットの四次元ポケットのようなものなんだろう。
ただ、ミーシャは「小さいけど」と言っていたし、村長も「大きめの」と言っていた気がする。
つまり、バッグによって収納できる量が違うのだろう。
ポイズンバイパーの死骸を見て、バッグに入らないとか言ってた意味がようやく分かった。
――いやいや、ゲームかっ!
思わず心の中でツッコミを入れる。
「えっと、お花さん?」
ミーシャが不思議そうに私を見ている。
ごめんごめん、ちょっと取り乱しただけだよ。
安心させるために頭に手を置く。
そのまましばらく綺麗な黒髪を堪能、ではなく、撫でる。
「んっ、お花さん、そろそろ行こ?」
あ、忘れてた。
外に村長待たせてるんだった。
引っ込めようとした右手をまたミーシャに取られる。
村長もいるし、もう手繋がなくても大丈夫じゃない?
「えへへ」
ミーシャが緩んだ表情を浮かべる。
まあ、嬉しそうだし、いいか。
この後、外に出たら、遅いと村長に叱られた。