十七話 獣人の村
村に入ってしばらく中央の道を進む。
右隣にはミーシャが並んで歩いており、私の右手を握っている。
いちいち騒がれるのは面倒だからと兵士たちに言われたからだ。
その兵士たちは、私とミーシャの後ろをついてきている。
正直、警察に連行される犯人みたいな図で嫌なんだけど。
まあ、手を繋いだらミーシャが嬉しそうだったので、黙って従っている。
私は村の中をキョロキョロと見渡す。
今進んでいる中央の通りは比較的大きな道なのか、両側に店と露店が建ち並んでいる。
色とりどりの野菜、森でよく見かけた果物、切り分けられた何かのお肉――。
青果店や精肉店がほとんどで、道具屋や服屋はたまに見かける程度だ。
ちなみに誰一人として近寄ってこない。
店の中や陰から覗いているのは分かるが、私と目が合うとサッとそらされる。
猫耳や犬耳を生やした人、腕が翼になっている人、そもそも何の獣か分からない人もいる。
要するに、全員獣人だ。
「あれが村長の家だよ」
ミーシャが通りの先に建つ一際大きな家を指し示す。
他と同じく木造の家だが、二階建てになっているようだ。
ミーシャは扉を開けると、私の手を引いて躊躇せずにあがりこむ。
勝手に人の家に入ったら……と思いきや、家の中は集会所のようになっていた。
広い部屋の中央には大きな木のテーブルが置いてあり、その周りにはイスが並んでいる。
また、壁にはレンガで組まれた暖炉も設置されている。
奥に上へ続く階段が見えるけど、二階は居住スペースなのだろうか。
そんなテーブルの一番奥に、白髪に髭を生やした老人が座っていた。
老人の後ろには槍のような武器を持った青年が一人。
青年は突然扉を開けて入ってきた私たちに気づくと、目を見開いた。
――ほんの数秒のできごとだった。
青年は老人を庇うようにテーブルへと身を乗り出し、私に槍を向ける。
私も咄嗟に繋いでいたミーシャの手を引き、その反動で前へ躍り出る。
同時に棘の蔓を二本、一本を男へ、もう一本をミーシャを守るために伸ばす。
青年と私はお互いに武器を向けあったまま停止した。
「待つのじゃ、ジルド」
「お花さん、待って!」
老人とミーシャが数秒遅れて待ったをかけた。
といっても、既にお互いに睨みあった状態で止まっている。
「……ミーシャ、その魔物は何だ?」
槍を持った青年がおもむろに口を開く。
銀の髪と耳が揺れる。
目付きは悪いが、かなりの美形だ。
この世界の基準は分からないけど、少なくとも私にはそう思えた。
「お花さんは、森で魔物に襲われてたところを助けてもらったの! それに、村まで連れてきてくれたの! だから悪い魔物じゃないよ!」
「魔物は魔物だろ?」
「もう、ジルドお兄ちゃんのわからず屋!」
……うん?
ちょっと待って。
ジルドお兄ちゃん?
右後ろに下がらせたミーシャを振り返る。
女の私から見ても、黒い猫耳を除いてもかなりかわいいと思う。
前の槍男に視線を戻す。
男らしいというより、整った顔立ちをしている。
うーん?
そんなに似てないよね。
「そこまでじゃ。ジルド、武器を下ろせ。そちらの花のお嬢さんも、言葉が分かるなら、その蔓を収めてくれんか?」
槍男の後ろから、老人の声が力強く響いた。
しかし槍男は私に槍を向けたまま動こうとしない。
はあ。
仕方がない。
私は伸ばしていた蔓を二本とも引っ込める。
老人――たぶんこの人が村長なのかな――の言葉もあるし、私の隣にはミーシャもいる。
このタイミングで襲いかかってはこないだろう。
私が蔓を引いたのを見て槍男は訝しげな表情を浮かべる。
が、危険性はないと判断したのだろう、素直に槍を引いてテーブルから降りた。
村長は槍男がもとの位置に戻ったのを横目で確認すると、ようやくといった様子で話し始める。
「ミーシャよ、また森に行っておったな? あれほど危険じゃと何度も言っておろうに」
「……ごめんなさい」
ミーシャが俯く。
耳としっぽもペタンと下がっている。
なるほど。
また、ってことは常習犯なのか。
あまり心配されてないからちょっと気になっていたけど、納得だ。
うなだれるミーシャに村長は軽くため息をついた。
「反省しておるならよい。それよりも、儂に何か用があったんじゃろう?」
「あ、そうだった! 村から西にちょっと行ったところに、ポイズンバイパーの死骸があるの! 死んだばっかりだから、今ならまだ他の魔物に盗られてないと思う」
「ポイズンバイパーじゃと? それも死んだばかりとはどういうことじゃ?」
「今朝、お花さんが倒したんだよ!」
ミーシャの言葉を聞いて私を見る村長と槍男。
……なによ、その疑うような目は。
「その花が、ポイズンバイパーを倒した? ポイズンバイパーはCランク相当の魔物だぞ」
ランク?
魔物の強さってことか。
あのポイズンバイパーがCランクってことは、私はどれくらいのランクなんだろう。
「そもそも、そいつは一体何の魔物だ?」
「見た目はアルラウネのようじゃが、あの魔物は動けん。それにランクもF程度じゃ」
――え?
ええ!?
私、アルラウネじゃないの!?