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外伝 ミーシャの誕生日

 パンっという軽い破裂音にあわせて色とりどりの火花が飛ぶ。

 同時に扉の前で待ち構えていた私、リルカ、エステルさんの三人が拍手を送る。

 そんな歓迎を受け、リビングの扉を開けて部屋に入ろうとしていたミーシャは、ドアノブを握ったまま呆気に取られていた。


「え……えっ? どうしたの、みんな?」


 ようやく立ち直ったらしいミーシャが、しかし困惑したまま私たちの顔を順に見て、さらに後ろの両親を見た。


「……ミーシャ。あれ見て」


 リルカが片足を引いて身体をずらし、リビングの壁に掛けられた白い横断幕を指差す。

 そこには『お誕生日おめでとう!』という文字が大きく書かれていた。


「たん……じょう日? だれの?」

「もちろんミーシャだぞ?」


 肩に手を乗せたディーツさんを振り返り、こてんと首を傾げるミーシャ。

 やがて思い出したのか「あっ」と声を上げた。


「お主……まさか自身の誕生日を忘れていたのか?」

「わ、忘れてないの! ちょっとうっかりしていただけなの!」


 うん、それ同じ意味だね。

 頑張って弁明しようとするミーシャに心の中で苦笑しつつ、私はミーシャの手を取って隣のダイニングへと連れていく。

 今日はリビングとダイニングの間の引き戸を全て開けており、ひと続きの部屋になっている。

 ミーシャの視線がリビングのテーブルの上にいくつか置いてある袋や箱を追うが、それは後のお楽しみだ。


 私は豪勢な料理が並べられたダイニングテーブルにミーシャを案内すると、お誕生日席に座らせる。

 鳥まるごと一匹を焼いたローストチキンをメインに、パンやサラダ、スープなども用意してある。

 クリスマスっぽいメニューだけど気にしない。


「わあ、どれも美味しそうなの!」

「あらあら、嬉しいわ。頑張って作った甲斐があるわ」


 私の前世の知識とクロエさんの主婦の腕をあわせて作った大作だ。

 経験に勝る知識なし、クロエさんのおかげでかなり美味しくできたと思う。


 ミーシャ以外のみんなもそれぞれ席に座ったのを確認すると、私とクロエさんは棚から飲み物を取り出して全員のコップに注いだ。

 クロエさんとディーツさん、それにエステルさんは果実酒、ミーシャと私とリルカはジュースだ。

 全員の飲み物が揃ったところでディーツさんがコップを掲げた。


「改めてミーシャ、誕生日おめでとう。こうしてまた家族揃って……いや、友人のみんなも一緒に祝えるのを嬉しく思う。今日は楽しんでくれ」


 「おめでとう!」の音頭でコツンとコップを打ち鳴らし、ミーシャの誕生日パーティーが始まった。


 ◇◇


「うう……もう食べられないの……」

「よくもまあ、あれだけ食べたの」


 お腹に手をあてたミーシャが苦しそうに唸るのを見て、エステルさんがやれやれといった風に首を左右に振る。

 私も呆れ半分、嬉しさ半分の笑みを浮かべる。


「……寝るには早い。お楽しみのプレゼントがまだ」


 食器などを洗い場へ運んでいたリルカがリビングの方を指差すと、ミーシャはガタンッと椅子を揺らして立ち上がった。


「そうなの! ずっと気になってたの!」

「あらあら、慌てちゃだめよ」


 今すぐにでもプレゼントに飛び付きそうなミーシャの肩をやんわりとクロエさんが押さえる。

 私たちは片付けの手を止めると、揃ってリビングへ移動する。


 リビングのテーブルの上にはいくつもの袋や箱が置いてある。

 実はミーシャの誕生日のサプライズということで、王都の知り合いに事前に声を掛けてプレゼントを用意してもらっておいたのだ。


「まずは私たちからね。ミーシャ、お誕生日おめでとう」


 クロエさんがそう言い、ディーツさんが大きめの箱を渡した。


「お母さん、お父さん、ありがとう! 開けていい?」

「ああ、もちろんだ」


 ミーシャはソファの上へ箱を置き、そっと蓋を外す。

 中からは黄色のフワリとした布が入っていた。

 あれって、もしかして?


「この前のドレスだ!」


 ミーシャが手にとって広げたのは、以前結婚式でミーシャが借りて着ていたドレスだった。


「私たちは出られなかったけど、そのドレスが気に入っていたみたいと聞いてね」

「これ、もう一回着たかったの! ありがとう!」

「うふふ、喜んでもらえて良かったわ」


 ミーシャは嬉しそうに身体にドレスをあてると、その場でくるりと一回転した。


「……じゃあ次はボクとエステルから」


 ドレスを戻したところで、リルカがこれまた大きな袋を手渡した。

 ミーシャは「ありがとう」と言って受け取り、袋を開けて中の物を取り出した。

 ……カバン?


「わっ! これ、もしかして、アイテムバッグ?」

「そうだ。今お主が使っているものはもう小さいようだからの。妾とリルカで新しく作ったのだ」


 えっ、アイテムバッグって作れるの?

 ……いや、エステルさんのやることを常識に当てはめちゃダメか。


「今、何か失礼なことを思われた気がするが……まあ良い」

「ありがとう! 薬草とか入りきらなくなってきたから、すごく嬉しいの!」

「……どういたしまして」


 じゃあ、最後に私かな?

 私はミーシャが抱えられるくらいの大きさの袋を手渡す。


 正直、何を渡すかとっても悩んだ。

 買えるものじゃ味気ないけど、私の知識でどうにかできることは意外と少ない。

 何せこの世界には前世の物も技術もないから。


 だから、今の私が用意できるプレゼント、けどこの世界にはないものを作ってみた。


「……わっ! クマさんだ!」


 そう、前世ではプレゼントの定番、テディベアだ。


「……可愛い」

「あら、本当に可愛いわね。これアルネちゃんが作ったの?」


 クロエさんの質問に私は頷く。

 正直、何度も失敗してぎりぎりで上手くできたのがあの一体だ。

 指を針で刺すなんてベタなことも何度もやった……まあ、すぐに治るけど。


「ありがとう、お花さん! 大切にするね!」


 ミーシャがぬいぐるみを抱いて満面の笑みを浮かべるのを見て、私は作って良かったなと感じた。


 その日は遅くまでミーシャと会話をして、みんなでミーシャの誕生日を祝ったのだった。

どうしても書いておきたかったエピソードも書き終えたので、今度こそ完結となります。

改めまして、最後までご愛読頂きありがとうございました!


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